組織崩壊を経て、「人」がいっそう経営事に
——経営陣が人事、特に採用活動を経営事として捉えてきたのですね。経営が採用にコミットすることの価値をどのように捉えていますか。
弊社の事業成長のドライバーは優秀な「人」だと言い切れます。ベンチャーのフェーズでは、優秀な社員がしゃかりきに頑張れるかが事業を左右する。「人材の質に事業の質もかかっている」といえます。
まだ社名の知られていない創業初期にも、優秀なインターン生を採用できる強いパスがあったことで、人材の質は高かったです。というのも、ワンキャリアの提供するサービスは比較的学歴が高い学生の利用率が高い就活プラットフォーム。ワンキャリアを通じて大企業に就職先が決まった学生が、卒業まで当社でインターンをしてくれて、数年後に転職して戻ってくるというケースが多くあります。
また、一度組織崩壊した経験からも、経営にとっての人事機能の重要性を痛感しています。実は、2018年に半分ほどの社員が辞めてしまったことがあったのです。
その経験があって、人材育成やオンボーディング、カルチャーの醸成といった課題にいっそう経営事として向き合うようになったと思います。ちょうどその時期に人事コンサル出身のメンバーが入社したので、そのメンバーの力を借りながら徐々に人事機能を体系的に整えていきました。

KPI達成と採用活動がトレードオフになる場面も、「採用優先」はトップが伝える
——長年経営マターとして長澤さんが主導してきた人事、採用活動も、現在は人事部門全体で運営されていると思います。権限委譲はどのように行いましたか。
私1人で面接できる数も限られてきますし、採用人数が増えるにつれて、徐々に採用活動の一部を委譲するようになりました。しかし、いまだに私や社長が最初から関わる採用もあります。先述のとおり、採用する人材の質が経営計画に直結するからです。
あくまでも経営陣をはじめとする全社が採用にコミットするべきという考えのもと、人事担当者にオペレーションを任せるという形をとっています。
採用権限の委譲は、まずはアルバイトの採用を現場に任せるところから始めました。もともとはアルバイトも社長決裁で採用していたのです。現在はメンバー層の一部までは部長決裁で採用してよいことになっています。
——拡大する組織の中で、人事の業務や権限を委譲する難しさはありましたか。
現場に採用にコミットしてもらう難しさはありましたね。現場の社員は日々の業務リソースを採用活動に割くことで、追っているKPIとのトレードオフが発生するわけです。
たとえばインターンシップを手伝ったり、面接に数時間使ったりしたときに、その分商談やテレアポができなくなる。当然月次の売り上げに影響も出ます。現場としては判断できないでしょう。採用活動の優先度が下がらないように、トップから「それでよい」と後押しすることを徹底しました。
事業ドメインが人材サービスであることもあり、「採用活動が何よりも優先事項だ」という意識はもともとあった会社です。とはいえ、組織の規模が100名を超えるとその意識の共有も難しくなってくる。現場にその意識を醸成することには、今もていねいに時間をかけています。