オーケストラ型組織とジャズバンド型組織——関係性がつくりだすリーダーシップ
オートポイエーシス的な、1人ひとりが創造性を最大限に発揮できる組織を考えるうえでは、オーケストラ型組織とジャズバンド型組織という2つの対照的な組織モデルが参考になります[1]。
注
[1]: 参考:井登友一『サービスデザイン思考——「モノづくりから、コトづくりへ」をこえて』第8章(NTT出版、2022年)
クラシック音楽のオーケストラは、指揮者の指示の下、各メンバーが決められたパートを演奏する組織です。指揮命令系統が明確で統率がとれており、効率性と正確性が重視される一方で、メンバーの主体性や創造性が発揮されにくいという側面があります。
一方、ジャズバンドは、必要最小限の決め事以外はそれぞれの演奏者が即興演奏をしながら、互いの演奏をリアルタイムで聴きながら呼応し合うことで、その場その場で創造的に音楽を生み出す組織です。ジャズバンド型組織では、メンバーの主体性、創造性、そして協調性が重視されます。
オーケストラ型、ジャズバンド型のどちらが良い悪いはありません。その組織がどのような環境下で、どのような目的に向かっていこうとしているのかによって、向き不向きがあるだけです。
安定した経済・社会環境の中で、過去の延長線上に成長を描くことができた時代には、オーケストラのようにガバナンスを効かせてメンバー各自が自身の持ち場をしっかりこなすことで目標管理が行える組織が向いていました。しかし、VUCAな時代においては、変化に対してその都度柔軟に対応し、新しい価値を創造するために「いま手元にあるもの」「いまできること」をパッチワークのように紡ぎ合わせながら、前へ前と物事を進めていくジャズバンドのような組織モデルが有効なのではないでしょうか。
このような組織では、リーダーは指揮者のように指示命令するのではなく、メンバーの主体性を尊重し、盛り上げ、創造性を引き出す役割を担います。加えて、ジャズバンドのような組織では、メンバー同士の関係性がより重要になります。メンバー同士の信頼関係、尊敬、自由な意見交換が活発であることが、組織全体の創造性を高めるのです。
つまり、ジャズバンド型組織におけるリーダーとは、「関係性から生まれるリーダーシップ」であるともいえるでしょう。そのようなリーダーシップは個人の能力に依存するものではありません。メンバー間の相互作用、すなわちコラボレーションの中で創発されるダイナミックな関わり合いの中からつくりだされるものです。
このような組織的なリーダーシップを活性化するには、組織全体がメンバー同士の自由な意見交換、協働、学習を促進する環境を整備することが欠かせません。これは特定の個人や部署の自助努力に任せるのではなく、HRが中心となり、全社レベルで進めるべきことでしょう。