進化がめまぐるしいAI、人事領域における活用傾向は
松井 生成AIの登場は、AIを多くの人が簡単に使えるものにしました。利用範囲も爆発的に広がっています。
中村 私は弊社に入社して約4年ですが、2年ほど前から徐々に生成AIの活用がトレンドになり、AIがホワイトカラーの業務を中心にインパクトを与えるようになってきたと思います。弊社のお客様の間でもAIに対する温度感はかなり上がっていますね。今では、AIなしに経営戦略や中長期計画を語る企業はないといえるほどになっています。
また最近感じているのは、AIを使用したツールやSaaSの大爆発です。カンブリア爆発のように採用、育成、配置、労務などあらゆる領域で新しいサービスが誕生しています。対する既存のサービスもAI機能の実装を進めており、どれを使えばよいのか分からないユーザーも多いのではないでしょうか。
AIの使い方については、ハーバード・ビジネス・レビューに興味深い調査結果が載っていました。2024年はアイデアの創出、セラピー・話し相手、検索が上位の用途でしたが、2025年にはセラピー・話し相手、生活の見直し、人生の目的探しといった人に寄り添う用途が上位に来たのです。この変化は、人事がAIを活用して従業員に寄り添うこと、そして経営をサポートすることが大きなトレンドになっていることを表していると思います。

中村 海太(なかむら うみた)氏
株式会社エクサウィザーズ 部門執行役員 コーポレート統括本部 人事ユニット長
2006年株式会社リクルートに入社。2021年1月に株式会社エクサウィザーズに参画しIPO、人事制度設計、人材・組織開発、リスクマネジメントなどに携わる。2025年4月より現職。人事・総務・事業推進の領域を管掌。「人事プロセスに可能な限りAIを組み込む」をテーマにAI活用を推進。
松井 人事領域におけるAI活用についてはどう見ていますか。
中村 2025年版の人事白書によると、回答のあった人事部門のうち約7割が生成AIを使用しているとのことで、かなり浸透してきているといえます。弊社でも「エクサウィザーズさんはどう使っているのか」という問い合わせが増えました。
松井 人事領域のAI活用は特に採用など、型が決まっている領域で進んでいる印象です。
中村 私も採用の領域でサービスが多く誕生しているように感じています。採用業務は労働集約的な側面もあり業務量も非常に多い。そのため、採用プロセスを支援するサービスは効果が出やすく、定着していくのではないかと考えています。
具体的な例としては、求人票の作成があります。求人票を1枚作成するだけでも、以前は取り掛かりからレビューまで1~2時間かかっていましたが、今では既存の求人票データや職務定義書、プレゼンテーション資料などを組み合わせることで、10分以内で叩き台が作成できるようになっています。
松井 採用以外では、評価でもAIが使われるケースが増えていると感じます。日本の管理職は、メンバーの評価に多くの時間を割いていることが多いです。AIで評価のドラフトを作成し、それを判断・修正するように変えることで、かなりの時短につながるでしょう。新しいビジネスにもっと時間を使えるようにもなります。
さらに、配置や育成の領域でもAI活用を進める企業が増えてきました。日本企業は、外国企業に比べて長い期間在籍する人が多く、人事データが豊富にある点も、AI活用を推進する点でアドバンテージがあるように思います。

松井 和人(まつい かずと)氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター
10年以上にわたり、一貫して「組織・人事」関連のコンサルティング業務に従事。 近年は、人材領域におけるAI・データ利活用に注力し、生成AIを活用したスキル体系構築・管理の構想・推進、最適配置に向けた分析や組織内ネットワーク分析、エンゲージメント分析、幹部開発等の人材育成に向けた分析等、幅広い実績を有する。直近は、AI・データを活用した人材配置検討をサポートする“Talent Matching”サービスの開発・提供にも尽力している。
中村 おっしゃるとおり、学習元のデータがたくさんあることは、人事領域におけるAI活用において強みになります。一方で育成については、データがなかったとしてもAIでできることがかなりあると考えています。
たとえば、メンバーの「目標設定」です。メンバーの目標設定は育成に関わるマネージャーの大切な業務ですが、メンバー1人ひとりの目標をきちんと考えるのは非常にエネルギーを使います。そこで弊社では、自社プロダクト「exaBase 生成AI for 人事」を導入し、目標設定をサポートするプロンプトテンプレートをマネージャーに提供しています。このテンプレートを使ってメンバーの目標設定を入れると、SMART原則[1]に沿った目標設定の基本をAIが考慮し、100点満点でレビューしたり、目標の概要を200字前後で書いたり、6ヵ月の目標達成プロセスまで落とし込んだりといったことができます。これにより、目標設定の精度が高まって、マネージャーとメンバーのやりとりは短時間で意味のあるものになります。これは育成において非常に有効です。
注
[1]: 目標設定における原則で、Specific(具体的である)・Measurable(測定可能である)・Achievable(達成可能である)・Relevant(経営目標と関連性がある)・Time-bound(期限が明確である)の5つをいう。

しかも、この機能は基本的に過去データを必要としません。生成AIは、一般的な概念に沿って目標や育成計画を修正する際にも使えるのです。
一方、exaBase 生成AI for 人事で過去データを使う機能には、新卒社員向けの「育成カルテ」があります。この機能ではまず、新卒社員と、等級が1つ上のハイパフォーマーたちとの差分を見つけ出し、文章に落とし込みます。さらに、新卒社員が今後担うミッションを投入することで、「そのような仕事をするのであれば、このようなミッション達成のさせ方がよい」といったアドバイスを生成AIが提供します。上長がこれを見ることで、新卒社員の日々の育成に活かせるようになります。

[画像クリックで拡大表示]
このように、過去データを使わずに一般論を補強する機能と、過去データを使って企業固有の育成を支援する機能の両方で生成AIが活用されています。