「関係性の固定化」をどう乗り越える?
冒険的世界観へのシフトを阻む2つ目の課題は「関係性の固定化」だ。これは、軍事的なマネジメントにおける役割分業が影響している。軍事的組織では、1人ひとりが目の前のことだけやっていればうまくいく状態を目指して、従業員同士の仲が悪くても、互いの価値観を知らなくても仕事が回るよう、分業の仕組みを整えてきた。
しかし、いっしょにアイデアを出し合ったり、協力して何かをつくったりするとなると、この関係性のままではうまくいかない。安斎氏は、関係性の固定化に関してよくある組織の悩みを挙げた。
「リーダーは『部下の主体性がなく、会議でアイデアを出してこない』と嘆く一方、メンバーは『会議の空気が悪くて発言できない』と主張しているケースはよくあります。これは関係性の固定化であり、『人』に対する認識の固定化ともいえます」(安斎氏)
リーダーシップの研究家ロナルド・ハイフェッツ氏によると、組織の問題は2つに分けられる。
1つは「技術的問題」で、解決策が明確で、既存の知識や技術で解決可能な問題のことだ。リサーチをして、弁護士やエンジニアなど専門家に頼ることで解決できる。
しかし、多くの組織が困っている「関係性の固定化」はもう1つの「適応課題」のほうに該当する。これは、問題の当事者たちが認識や関係性を変えなければ解決できないタイプの課題のことで、情報収集などの外部からのインプットだけでは解くことが難しい。「ではどうやって解くかというと、答えはただ1つ。対話するしかない」と安斎氏は強調する。
ここでいう対話とは、目と目を合わせた会話に限らない。安斎氏いわく「対話的な状態」をつくることが重要だという。
「対話とは本来、次図でいう表面下でコミュニケーションをすること」だと安斎氏。

しかし、多くの企業が目に見えやすい表面上の発言・行動を問題として設定し、解決策を打ってしまう。「聞く耳を持たない」上司に傾聴力の研修を受けさせたり、「発言できない」ことを心理的安全性の問題だと捉えて施策を考えたり。安斎氏は「研修を受けた直後に上司の相づちが増えても、本質的な関係性は変わらない」と指摘する。
大事なのは、その根底で何が起きているのかを追求することだ。たとえば、上司は若いころから「プロフェッショナルは環境のせいにしない」というマインドを学び、そのおかげで評価・昇進してきたからこそ、「会議の空気が悪いから発言できない」という発想を理解できないのかもしれない。
一方の部下は、学生時代の部活で「チームプレーが大事。パスが欲しいなら話せ」と教わってきたので、会議で上司がこちらを気にしない=パスが求められていないと捉えて心が折れた、といった可能性もある。
「会社では、別々の人生を歩んできた、異なる価値観の人たちが集まって働いている。価値基準の多様性を受け入れあうことが、ここでいう『対話』です」(安斎氏)

