2. 裁判所の判断
XらとY社の間に黙示の労働契約が成立しているかについて検討する。
(1)基本的な考え方
社外労働者と受入企業との間に黙示の労働契約が成立すると認められるためには、社外労働者が受入企業の事業場において、同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事していること、実質的にみて派遣企業ではなく受入企業が社外労働者に賃金を支払い、社外労働者の労務提供の相手方が派遣企業ではなく受入企業であることが必要であると解される。
(2)Y社社員による指揮命令
勤務開始当初から、Xらは、Y社西神工場において、Y社社員である班長の指揮命令を受けて各自の担当作業を行っており、労働契約上の使用者であるZ社による指揮命令を受けていなかったということができる。
Y社は、職業安定所による是正指導を受けて、Z社の現場責任者をY社西神工場に置いたと主張する。
現場責任者となったE部長は、XAが作業を行っていた西神工場のH棟に机を置いて駐在するようになったが、Xらが担当した作業について具体的な指示を行ったことはなく、Z社からの労働者らを集めた朝のミーティングで一般的な話をしたにすぎない。
Xらは、朝に当日の業務指示書をZ社の従業員から受け取るようになったが、実際の作業ではY社従業員である班長から作業内容の変更が頻繁に指示されていたことが認められる。
Y社が行った上記措置は、職業安定所からの是正指導を受けて、派遣元企業による指揮命令の形式をとり、適正な業務処理請負とするためになされたものである。
このように、Xらが勤務を開始してから約1年後に行われた事後の対応をもって、黙示の労働契約の成立を否定する事情と解することはできない。
Y社は、XらがZ社の就業規則を受け取っていたと主張する。
しかし、形式上はY社ではなくZ社が使用者なのであるから、いわば当然のことであり、このことが実質的な指揮命令をZ社が行っていたことを基礎づける事情であるとはいえない。
(3)Xらの賃金について
Y社とZ社の間の本件委託契約は、当初(平成15年2月締結)は、Y社からZ社に支払われる報酬の金額が1部門につき月額15万円であった。
同年4月には、Xらの勤務実績に応じて月額16万円に改訂されたことが認められる。
もっともY社は、上記報酬金額は労働者が残業した場合でも増額されず、増額分はZ社が負担していたと主張する。
このことは、Z社が本件委託契約において採算を度外視していたことを意味するから、Z社がY社から経済的に独立して業務処理請負(もしくは派遣業)を行っていなかったと評価される事情となる。
(4)作業状況等について
Xらは、それぞれの班においてはZ社からの労働者としては単独で、その他の複数のY社の正社員と同一の作業を渾然一体となって行っていたといえる。
Xらの出勤簿はY社が管理し、残業についてもY社の職場長の指示で行われていたこと、有給休暇の申請についても、Y社の従業員と同じ用紙を使用してY社の班長に提出していたことが認められる。
Xらの労務の提供は、Z社の請負業務ではなく、もっぱらY社に対して行われていたと評価することができる。
(5)XらとY社との間には、黙示の労働契約が成立
以上の検討によれば、XらとY社とは、形式的には、XらとZ社との間の労働契約およびY社とZ社との間の業務請負契約に基づいて、XらがY社に労働力を提供していた。
これを実質的にみれば、受入企業であるY社から作業上の指揮命令を受けて労務に従事しており、派遣企業のZ社ではなく、受入企業であるY社が社外労働者であるXらに賃金を支払い、Xらの労務提供の相手方はY社であったということができる。
そうすると、Xらが上記のような勤務形態で勤務を開始した時点で、XらとY社との間には、黙示の労働契約が成立したというべきである。

