労基法大改正は何を目指しているのか
——2027年に予定されている労基法の大改正について、松井さんはどのように受け止めていますか。
松井勇策氏(以下、松井) 社会がプラスの方向に向かっていると感じています。労基法は、労働法の中核を担う法令ですが、制定から長い年月が経っていることから、現代の働き方にそぐわない点も多く、改正の必要性は数十年前から指摘されていました。
とはいえ、今回の改正は、そうした制度の古さを修正するだけのものではありません。2023年12月に公開された、労基法改正の前提となる厚生労働省の報告書「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書」の中で、複数箇所において人的資本経営による変革に言及され、2025年1月の「労働基準関係法制研究会報告書」においては戦略的な変革に適した法体系が目指されていることから、「働き方を変えていく」ことを包括的に実現する法改正であることは明らかです。
松井 勇策(まつい ゆうさく)氏
産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士
雇用系の産学連携シンクタンクの代表理事・社労士。先進的な雇用環境 整備について、特に雇用系の国内法や政策への知見を軸に、人的資本経営の推進・AIやIT・ブランディング関係の知見を融合した支援を最も得意とする。株式会社リクルート出身、同社の東証一部上場時には事業部サイドの監査や整備を推進。退職後に社労士・組織コンサルタントとして独立、のち情報経営イノベーション専門職大学(iU)に客員教授として招へい(専門:人的資本経営・雇用政策)、2024年産学連携シンクタンク設立。
執筆:HRzine「労働基準法大改正 解説【前編】——2027年改正が示す「働き方」の転換と人的資本経営の進化」「労働基準法大改正 解説【後編】——20以上の論点が提供する選択肢と求められる人材戦略」
——なるほど。つまり、今回の労基法の大改正は、働き方改革と人的資本経営の次の段階であるということですね。
松井 そうです。根本にあるのは、ここ10年の働き方の変革の政策の流れです。人口減少や高齢化を見据えた中長期的な経済成長戦略の中で、生産性の向上や労働参加率の拡大を実現する手段として、働き方の見直しが位置付けられました。この考え方が2017年からの働き方改革でまずは過重労働の抑制が行われ、さらに2022年以降は人的資本経営として経営戦略と接続した人材戦略が目指されました。
2027年に予定されている「労基法大改正」は、人的資本経営の次の段階のものとして、働き方を徹底して変えることを目的にしているといえます。
——たしかに、これまでの人的資本経営では、制度設計や仕組みづくりといった人事企画に関する議論が中心であり、働き方についての議論は、あまりされてこなかった印象があります。
松井 まさに、そのとおりです。人材版伊藤レポートにおける8つの開示項目の中でも、働き方と具体的に関連する項目はたった1つだけ。それ以外はすべて、「人材を最大限活用するために、どう育成するか」というのが主なテーマでした。
経営戦略と結び付けやすい人材開発の全体像が見えてからでないと、多様な働き方を考慮する方向には行けませんし、人的資本経営の政策の位置付けはそういうものだったと思います。
今回の労基法の大改正で徹底して「働き方」の変革が行われることになります。人的資本経営でもいわれた「人材ポートフォリオ」単位での戦略的な「多様な働き方」の設計と実現、労働時間の開示や柔軟化などで働き方の変革が目指され、労使コミュニケーションでこれらを妥当にしていくような運用を全ての企業で行い、働き方の変革が実現されるような制度設計となっています。
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