努力の方向性を示す:「未来への地図」の必要性
社員が「変わりたい」と1歩踏み出しても、その努力がどこに向かうのか、会社の中でどう報われるのかが見えなければ、その意欲はすぐにしぼんでしまいます。これは、目的地なく航海をしようとするのと同じです。どんなに船員(社員)が優秀でも、羅針盤(キャリアパス)がなければ、漂流してしまうでしょう。
特に、ジョブ型雇用への移行が進む現代においては、「努力すれば報われる」という曖昧なメッセージではなく、「このポジションには、このスキルが必要」と示すことで、「社内のこのポジション、この領域で活躍したいので学ぼう」という意欲につながります。この具体的な「未来への地図」を示すことが人事の重要な役割となります。
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社員が「自律的・主体的なキャリア形成」を求められることにストレスを感じるのは、その地図が示されないまま、「自由に歩け」と言われているような息苦しさ・不安があるからです。この不安を取り除くことが、自社でのキャリア自律を促すための鍵となります。
働く「価値観」を理解し、多様なキャリアの道筋を示す
ここで重要になるのが、社員が「何を重視して働きたいのか」という働くうえでの価値観を深く理解し、その価値観に応じた多様なキャリアパスを示すことです。
リクルートマネジメントソリューションズの調査「若手・中堅社員の組織適応に関する現状把握調査(2025)」では、若手・中堅社員の働く価値観を分析するために、以下の2つの軸を用いています。
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- 「生活重視 ⇔ 仕事重視」(仕事と生活の優先度)
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- 生活重視型:働く上では生活やプライベートの充実を第一に考えたい
- 仕事重視型:やりがいのある仕事が担当できるならば、とことん仕事に打ち込んでみたい
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- 「現在起点型 ⇔ 目標志向型」(キャリア形成に対する考え方)
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- 現在起点型:自分はキャリアの目標を定めてそれを目指すタイプではなく、将来に向けて今できることに取り組み、どれだけ自分の力を高められるかが課題である
- 目標志向型:自分には将来やりたいことや実現したい目標があり、それを今後のキャリアの中でどのように実現していくかが課題である
この2つの軸から生まれる4つのタイプは、社員が会社に求める「道筋」が1つではないことを示唆しています。人事施策は、この多様なニーズに対応できているでしょうか。
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