組織風土を変えようとする背景
企業が「組織風土を変えよう」と考える際には、明確なきっかけがあります。たとえば、合併や統合で異なる文化が衝突したとき、業績が伸び悩んでいるとき、ハラスメントなどの不祥事が起きたとき、あるいは経営層の関係性が崩れ始めたときなどです。
これらはすべて、表面的には“制度”や“業績”の問題に見えても、根本には人と人との関係性のズレがあります。
そのため、組織風土を変える取り組みでは、仕組みを変えるよりも先に「人」に焦点を当てる必要があります。人がどう感じ、どう関わっているのかを見える化し、そこから関係性を整えることが、変化の出発点になります。
“自分ごと化”を促す最も効果的な方法は「対話の機会をつくる」
組織風土改革がうまく進まない理由の多くは、社員が変化を自分事ととして受け止められていないことにあります。会社の方針やビジョンがどれほど立派でも、現場の人たちが「上が決めたこと」と感じているうちは、行動は変わりません。
そのために人事がまず取り組むべきことは、社員同士が本音で話せる対話の機会を意図的に設計することです。
対話の目的は、意見を集約することではありません。社員が「自分の考えを聴いてもらえた」と感じることが最も重要です。この“受け止められた実感”が、自分もこの組織の一員として関われるという感覚を生みます。
<対話設計の例>
- 全社向けセッション:部署や役職を越えて、自分が会社や組織に対して「誇りに思うこと」「変えたいこと」を共有する
- 部門横断ワークショップ:テーマを設け、現場視点で組織の課題と理想を話し合う
- サーベイ対話会(アンケート後の振り返り):従業員意識調査やエンゲージメントサーベイの結果を「評価」として終わらせず、“なぜそう感じたのか”“どんな職場にしたいのか”をグループで話し合う場を設ける。スコアの上下ではなく、その背景にある経験や気づきを共有することを目的とする
このような場を継続的に設けることで、社員は「会社の方針を受け取る立場」から「自分も風土をつくる立場」へと変わっていきます。
組織のあるべき姿を“社員の手で”見つける
多くの企業では、「新しい組織像」や「スローガン」を経営企画主導で決めて発信します。しかし、それでは現場にとって“他人の言葉”のままです。
本来、組織のあるべき姿とは、社員1人ひとりの“ありたい姿”が重なり合ったものであるべきです。そのため人事は、社員自身が自分たちの理想を言葉にできるように支援する立場に回ります。経営が決めた言葉を「浸透」させるのではなく、社員の言葉から「共に育てる」ことが重要です。
<実践の流れ>
- 各部門・職種単位で「自分たちらしさ」「理想の働き方」をテーマに対話を行う
- 出てきたキーワードを整理し、共通点や価値観を抽出する
- 抽出した共通点や価値観をグルーピングして見える化。それらをもとに全体像を確認し、“あるべき姿”を社員の言葉で再構成する
社員が見つけた言葉は、押しつけられたスローガンよりも定着しやすく、実際の行動指針として自然に機能します。

