日本企業に潜む人材ミスマッチの現状
アビームコンサルティングが2025年に実施した企業内の人材ミスマッチに関する調査結果によると、約9割の企業が「人材不足」を感じている一方で、約6割の企業が「人材過剰」という実態を抱えていることが明らかになりました。さらには、この「人材不足」と「人材過剰」の両方が同時発生している企業も、6割以上に上るという結果も出ています。
特に30代・40代といった、本来は事業変革の中核を担う世代において「人材過剰」が多く発生しており、活かされていない人材が社内に滞留している状況が浮き彫りになりました。これは単なる人員配置の問題ではなく、事業戦略の変化に対して、役割定義や人材活用の仕組みが十分に対応しきれていないことを示唆しています。結果として、人材ミスマッチが慢性化し、組織としての変革力や競争力を徐々に損なっていくリスクをはらんでいるといえるでしょう。
こうしたミスマッチは、人事部門だけの問題として表面化するものではありません。現場では「忙しい部署」と「手が余る部署」が併存し、マネージャーは短期的な業務対応に追われる一方で、中長期的な人材育成や配置の見直しに十分な時間を割けない状況に陥りがちです。また経営層にとっても、人材に関する意思決定が個別最適の積み重ねとなり、事業ポートフォリオの転換と人材戦略が噛み合わないという課題を生みやすくなります。
人材ミスマッチは、個々の配置や評価の問題ではなく、本連載第1回で述べた「視点・仕組み・運用」という複数レイヤーにまたがって、経営と現場を同時に縛っている構造的な課題として捉える必要があります。こうした構造課題への対応策として、多くの企業がジョブ型やスキル型といった新たな人材マネジメントへの移行を進めています。しかし、制度を導入しただけでは、必ずしも人材ミスマッチの解消につながらないケースも少なくありません。
ジョブ型・スキル型の限界
このようなミスマッチ解消の打ち手として、ジョブ型やスキル型を導入する企業が増えています。しかし、これらを「制度」や「仕組み」として導入しても、必ずしも期待した効果が出ないケースが少なくありません。日本企業では、雇用慣行や人材流動性の違いもあり、欧米型のジョブ型制度をそのまま適用するだけでは、現場運用が硬直化しやすいケースも見られます。
ジョブ型は、職務(ジョブ)を定義し、要件に合う人材を当てはめることで、役割や責任を明確化するアプローチです。一方で、環境変化に応じて事業ポートフォリオが急速に変化し、役割変化のサイクルが短期間する現代においては、「現在の職務」起点の設計だけでは、将来変化への対応が後手に回る場面も生じやすくなります。職務記述書が形骸化したり、運用が十分に整わないまま「人ありき」で業務を当てはめる状態になったりすれば、制度はあっても実態は変わらない、という現象が起きてしまいます。
たとえば営業職の場合、従来の「商品を売る営業」を前提に人材を配置していると、企業が「顧客課題を解決する提案型営業」へと事業モデルを転換した際、現場の人材はこれまでの営業スタイルやスキルに依存したままになりがちです。その結果、新しい営業活動に必要な課題発見力やソリューション設計力といった能力の育成が後手に回り、現場が変革に対応できない、あるいは対応が遅れるリスクが生じます。
またジョブ型は、職務にひも付く処遇設計になりやすく、職務要件を満たしているかどうかが主たる評価軸になりがちです。その結果、現職で求められる範囲に成長がとどまり、越境や挑戦が起こりにくい構造をつくる可能性があります。変化が常態化する現代には、職務適合の最適化だけでは、組織全体としての変化対応力を十分に高められません。
一方スキル型は、個人の能力やスキルを可視化し、適材適所の配置や育成を促進する点で一定の意義があります。しかし、スキルを可視化しても、それが将来の事業構想と接続されていなければ、「いま何が足りないか」は説明できても、「これから何を獲得すべきか」という経営視点の問いには答えにくいままです。スキルの棚卸しやタレントマネジメントシステムの導入が進んでも、組織全体の戦略的な変革や長期的な成長には十分に寄与しないケースが多いというのが現実です。
つまり、ジョブ型やスキル型はいずれも「今の職務やスキル」を前提に人材配置や育成を進める設計であるため、事業の方向転換や新しいビジネスモデルへの移行に際して、必要な能力やスキルの再定義や育成施策が後手に回りやすい構造を持っています。

