成果への分岐点を心得る
継続の壁を乗り越えるポイントは「成果実感の積み上げ」です。ITサービスは目に見えないため、成果が実感できなければ、忙しい中で取り組みの優先順位が下がってしまうのは当然といえます。成果実感を積み上げる工夫を加えることで、時間とともに取り組みの熱を上げ、継続の壁を乗り越えなければなりません。
もちろん、成果なら何でもよいわけではなく、ビジネスである以上、事業成長に強力につながる成果実感が不可欠です。しかし実態は、顧客に喜んでもらえれば何でも成果だと思って、闇雲に取り組みを進めてしまうことが少なくありません。そこでまずは、事業成長につながる成果への分岐点を理解しておく必要があります。
次の図を見てください。これは顧客満足度とリピートや推奨の意向を相関グラフにしたものです。
顧客満足度が「不満(1点)」から「やや不満(2点)」「普通(3点)」「やや満足(4点)」へ高まっていっても、リピートや推奨の可能性はあまり高まらず、「大満足(5点)」になってリピートや推奨の可能性が急激に高まっています。私がサービス改革を支援している企業で相関関係を分析すると、BtoCのITサービスに限らずBtoBのITサービス事業でも、おおよそこのグラフと同じ傾向を示します。
つまり、「顧客満足度が高まるにつれて、リピートや推奨の可能性が比例的に高まる」という考え方はまちがっていて、事業成長につながる成果を得るためには大満足あるのみということです。実際「やや満足(4点)」と答えた顧客の、実に97%以上が離反の可能性があります。法人向けITサービス事業であれば、クライアントにビジネスパートナーとして選ばれ続けるためには、大満足あるのみだと言い換えてもよいと思います。
このことを理解した上で、これまで取り組まれてきた顧客満足向上の取り組みを振り返ってみると、少し筋ちがいだった点が見えてきます。それは、平均値に着目してしまっていたり、大満足とやや満足を合算して「満足度が80%もある」と安心してしまったりしていることです。たとえば、5段階評価(1点:不満~5点:大満足)で顧客満足度を調査した結果を見て、「昨年の我が社の顧客満足度は平均値が3.2点だったので今年は3.7点を目標にしよう」と決めるといった具合です。
その結果どうなるか。1年間必死に取り組んだ結果、見事に顧客満足度の平均値が3.2点から3.7点に向上したのに、肝心のリピートオーダーは大して増えない――といったことになります。平均値に着目して取り組んでも成果にはつながりません。なぜなら、先述したとおり、大満足でなければリピートオーダーはいただけないからです。
では、大満足の評価を得るにはどうすればよいのでしょうか。着目すべきは「やや満足」です。「やや満足」と答えた顧客を特定し、その顧客に「大満足」と評価していただくためには何をすべきかに絞って取り組むのです。ただし、「やや満足」と答えた顧客を特定し、顧客の名前や利用履歴がわかったところで、どうしたら大満足してもらえるのかは分かりません。重要なのは「やや満足」と答えた顧客の“事前期待”(本連載第2回を参照)です。これが分かれば、次の一手が浮かび上がってきます。
また最近、さらに重要なことが分かりました。「大満足」と回答した顧客には2種類あるということです。1つは、「このコストパフォーマンスなら納得です」というように、頭で考えて論理的に大満足している顧客。もう1つは、「すごく助かりました」「心が温まりました」と心で感じて感情的に大満足している顧客です。これらのうち、論理的に「大満足」している顧客は、実は「やや満足」よりも、リピートや推奨の意向が低いことが分かってきました。つまり、感情的に大満足した顧客を増やすことが、事業成長のカギなのです。