サービスプロセスをモデル化する
忙しさとの戦いでもあるITサービス事業において、「闇雲の壁」を乗り越えるには、多忙な中でも何に努力を集中することに価値があるのかを明確にした「サービス設計」を組み立てる必要があります。とりわけ、事業変革においては、現状のサービスを価値ある設計に組み直すことが重要です。あいまいなサービス設計では、闇雲な取り組みになってしまうのは当然です。
また、サービスの現場には、長年の経験やセンスで磨いた価値ある知恵や工夫(暗黙知)がたくさんあります。ただし、それらは各自の頭の中に入っているだけで、組織で活用できていないことが少なくありません。まさに宝の持ち腐れです。もし、これを見える形にできれば、皆でそれを見ながら実践できるため、現場の知恵や工夫が組織の力に変わっていきます。
闇雲な取り組みを避け、暗黙知を可視化するために有効なのが、「サービスプロセスのモデル化」です。このモデルを使って、顧客から高い評価を得られるサービス設計を組み立てます。
サービスプロセスのモデル化は、以下の4ステップで行います。
ステップ①
サービスプロセスを定義します。すでに、サービスプロセスの定義ができているという場合でも安心してはいけません。多くの場合、「サービス提供プロセス」しか定義されていないことがほとんどです。「サービスは顧客と一緒につくるもの」なので、次図にあるように、サービス提供プロセスと顧客プロセスを必ずセットにして並べることが大切です。両方のプロセスを並べて定義してみると、さまざまな気づきを得られます。
たとえば、運用中のITシステムのトラブル対応を考えてみます。サービス提供プロセスでは、スタッフが1秒でも早くトラブルを解消しようと作業に没頭しています。このときの顧客プロセスはどうでしょう。顧客は何もしていないのではありません。状況を何も知らされないことにイライラしながら待っているのです。この場合、たとえトラブルが早く解消したとしても、待ちへの配慮が足りないことが原因でクレームになってしまう可能性が高いといえます。もし、顧客プロセスの欄に「何も知らされずに待たされている」と書いてあれば、顧客にこまめな状況報告をするなどの工夫が必要だと気づくはずです。
他にも、営業プロセスをモデル化してみると、提供プロセスとして「自己紹介する」「会社の紹介をする」「提案内容を説明する」といったことが並んでいきます。そこに顧客プロセスをセットで書いてみると、「自己紹介を聞く」「会社説明を聞く」「提案を聞く」となりますが、これらは顧客が一言もしゃべっていない不自然なプロセスであることは明らかでしょう。
このように、サービス提供プロセスと顧客プロセスを並べて定義することで、顧客目線でサービス全体の流れを見直すことができ、より効果的なサービス設計に組み直すべきポイントが見えてきます。
ステップ②
プロセスごとに「事前期待」を定義します。ステップ①で定義したサービスプロセスごとに、顧客が何を期待しているのかを定義していきます。このとき、どんな事前期待に着目すべきかを意識する必要があります。
事前期待には4つの種類があります(本連載第2回を参照)。共通的な事前期待に応えるだけでは、「当たり前サービス」でしかありません。個別的な事前期待や状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待を意識する必要があります。しかし、実際にプロセスごとの事前期待を定義してみると、普段意識している事前期待は、共通的な事前期待ばかりだったと気づくことがよくあります。価値ある事前期待に着目し、顧客に価値が実感してもらえるサービスプロセスに組み直すとよいでしょう。