本記事の前編はこちらから。
御園生 銀平(みそのう ぎんぺい)氏
ソフトバンク株式会社 人事本部 戦略企画統括部 人材戦略部 人材戦略課。
HRデータアナリストとしてR/Pythonを用いてピープルアナリティクスに取り組む。採用・配置・退職・エンゲージメント・ハイパフォーマー分析などを実施中。人事内のアナログとデジタルをつなぐことを目指す。Rが好き、猫好き、小説好き。
鹿内 学(しかうち まなぶ)氏
博士(理学)。株式会社シンギュレイト 代表。
働く中でのコミュニケーション・データから関係性に注目した次世代ピープルアナリティクスにとりくむ。代表を務めるシンギュレイトでは1 on 1や会議で利用できる可視化ツールを提供中。働く組織の科学と実用をめざす。情報量規準が好き、サッカー好き、漫画好き。
難しさを感じた目的の違うデータの活用
鹿内学氏(以下、鹿内):今までのデータ分析でうまくいかなかったことはどんなことですか。特に最初の頃に苦労したことを教えてください。
御園生銀平氏(以下、御園生):その意味では、先ほどの(前編で見た)ある職種を対象としたデータ分析は、退職者の予測モデルを作るところまで持って行きたかった案件でした。もう少しできることがあったのではないかという思いはありますが、実際は予測の手前でつまずいてしまいました。ただ、これはもともとオペレーションのためのデータで、退職者予測の目的で得ているデータではありません。目的が違うデータを分析に使うことの難しさを実感しました。
鹿内:実は、人事が持つ既存のデータでは、課題に対して予測まで進めることが難しい場合が多いのです。人事と違って、マーケティングのデータ分析が比較的うまくいっているのは、取得しているデータが、マーケターが予測したい「買うかどうか」という購買行動データだからです。その意味では、勤怠のような行動データを使うことには検討の余地がありそうです。
御園生:最初は楽観的に考えていましたが、そのとおりですね。うまくいかなかったことは学びとしては大きかったとは思います。
鹿内:人事や経営と「このデータを使うとここまで分析できる」というコンセンサスが取れていることが大事ですが、そのときに可視化が丁寧にされているとよいですね。
チームとして進めてきたこと
鹿内:2年前に、ピープルアナリティクスチームを立ち上げてみていかがでしたか。
御園生:最初はこれまでの人事制度の企画や運用の仕事との兼務だったものの、データ分析に割ける時間が増えたことがうれしかったですね。組織的に仕事をするようになると、やりにくいことも出てきますが、チームへの期待値を他のメンバーがうまくコントロールしていました。
鹿内:ピープルアナリティクスチームのミッションはどんなものだったのでしょう?
御園生:「経営課題の解決に資する分析を行うこと」です。チームとしては、社員一人ひとりが生き生き働けるような分析をしたいという思いもありました。分析テーマは比較的経営課題に近いものが多く、レポートラインは経営層です。自動的に集まるものもありますが、基本的にソフトバンクで働いている人たちがデータを提供してくれるので、その人に対してどんな価値が返せるかを常に考えてきました。
鹿内:経営側との課題整理はどう進めましたか。
御園生:私の担当範囲はデータ周辺が中心ですが、依頼者からの課題を整理するときは必ず同席するようにしています。かなり質問もします。共通認識がないと、結果を示したときに「思ったのと違う」と言われてしまいますから、そこは手を抜かないようにしています。具体的には、課題を聞くときに一緒にデータを見ます。課題を整理するときは、定性的なものだけではなく定量的な材料を用いて、認識を一致させることが必要だからです。課題を整理する時点でデータが決まっているわけではありませんが、ケースバイケースで集めるようにしています。