それはIT技術が世界を笑顔にできる時代だから
IT技術者には、当然ながら技術力が求められます。しかし、技術力だけでビジネスが成り立つわけではありません。それに、他の分野での知識や観点(目線)が、回り回って技術力の向上につながることも少なくありません。他の分野で知り合った人との関係が自分の世界を広げ、予想外の展開が始まることだってあります。機会があれば、技術以外のことも柔軟に取り入れましょう。とはいえ、技術以外に何を取り入れたらいいか分からない――。
筆者がIT技術者の方に取り入れることをまずお勧めしたいのは、相手を思いやるという考え方です。なぜかというと、誰の役⽴つのかをイメージしながらIT技術を使うことで、個人も企業も、大勢が笑顔になる世界を創れる時代に突⼊したからです。実際、IT業界でも相手を思いやるという考え方が、さまざまなところに登場しています。以降では、そうしたキーワードをいくつか紹介していきます。
プロダクトアウトとマーケットイン
「プロダクトアウト」とは、自分たちが提供する商品やサービス(プロダクト)を出発点として、「それらを販売するにはどうすればよいか」を検討していくという方向の考え方です。これの対義語として使用されるのが「マーケットイン」で、市場や顧客(マーケット)の嗜好やニーズを出発点として、それに応えるような商品やサービスを企画し販売していくという方向の考え方です。
最近では、一般的に「プロダクトアウトは古い(または間違っている)」と言われることが多いですが、どちらが正しいということはありません。マーケットが思いも付かないような新製品や、既成概念にとらわれない全く新しいコンセプトの商品やサービスを提供するには、プロダクトアウトの考え方をする必要があるでしょう。ただし、マーケットは自ら創り出していかなければなりません。
しかし、経済や技術が発展し、ある程度飽和した現代において、全く新しいものを生み出し、マーケットを創り出すという機会はめったにありません。結局、多くのビジネスシーンで活用できるマーケットインのほうが重要視される傾向にあります。
マーケットインは、相手を思いやるという考え方から始まります。
サービス
20年以上前、日本のIT業界に「サービス」という考え方が入って来ました。その最たるものは、ITILに始まるITSM(ITサービスマネジメント)です。ITILでは「サービス指向」、つまりITを単なる技術ではなくサービスとして捉え、扱うべきだという考え方を基本に置いています。
サービス指向は「顧客指向」とも呼ばれています。サービスは「顧客に価値を提供する手段[1]」であり、顧客にとって価値のないものはサービスではないというのがITILの主張です。「顧客にとっての価値が何であるかを考えることによりITを活かすことができる」のであり、これもまた、相手を思いやるという考え方に通じます。
注
[1]: 『ITIL 2011 edition:サービスストラテジ』より。日本語版は、NPO法人itSMF(ITサービスマネジメントフォーラムジャパン)のWebサイトで購入できます。