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マタハラによる使用者責任と健康配慮義務違反(福岡地裁小倉支部 平成28年4月19日)

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2020/11/06 06:00

 利害関係のない知人・友人であれば素直に祝福する妊娠・出産。これば職場の同僚や部下となると、自分の仕事が増える・部課の仕事に支障が出ると思って嫌がらせをしたり圧力をかけたりする。いわゆる「マタニティーハラスメント(マタハラ)」ですが、令和になっても相談件数が増加していると厚生労働省は伝えています。今回ご紹介するのは、上司によるマタハラです。人事としては、いまだこのような考えの管理職が少なからずいることを頭に入れ、目配りするとともに、教育などで徹底防止したいものです。

1.事件の概要

 ある介護サービス会社で、介護職員として勤務していた女性職員(以下「原告」)が、損害賠償を求めた事件です。被告(以下「会社」)の営業所の被告所長(以下「所長」)は、原告が妊娠中であり、他の軽易な業務への転換を求めたにもかかわらず対応せず、またマタニティーハラスメントを行い、良好な職場で働く原告の権利を侵害するとともに、会社は、従業員であった所長の指導を怠ったと主張したものです。

 裁判では、所長は原告に対し健康に配慮する義務に違反したとし、会社に対しても使用者責任および就業環境整備義務に違反したとし、連帯して損害賠償金を支払うことを命じました。

 事件の概要は、以下のとおりです。

(1)当事者 

 会社は、介護サービス等を業とする株式会社であり、所長は、平成24年6月1日以降、送迎付きの通所介護(デイサービス)を行うA営業所で、所長として勤務していました。 

 原告は、平成21年4月頃、会社に期間を定めて雇用され、その後も雇用継続されて、A営業所において、介護職員として就労していました。

(2)原告の妊娠と業務軽減の申入れなど

①妊娠の報告(平成25年8月1日)

 所長は、原告から「妊娠しました(当時妊娠4か月)」との報告を受けました。所長は、自分の上司に対応を相談したところ、同上司から、「原告と話をして、担当業務のうち何ができて何ができないのか確認するように」との指示を受けました。

②所長と原告との面談(同年9月13日)

 所長は、原告からできる業務とできない業務を確認するために、原告と面談しました。所長が面談時に、業務を1つずつ挙げて、原告に内容を確認したところ、原告は、所長に次の点を述べました。

  • 医師から重たい物を持たない、長距離を歩かない、高い所から物を下ろさない、手を上に上げないなどの指導を受けていること
  • 介護業務の中で、体操やレクレーションは手を高く上げない範囲で可能であること
  • 入浴や衣服の着脱は控えたいこと
  • 歩行介助は可能であることなど

  原告自身が、「できない業務が多い」という感想を漏らしたところ、所長は、歩行介助についても危険があるのではないかという旨を指摘しました。

 その後、所長は以下の発言をしました。

  • 「何よりも何ができません、何ができますちゅうのも不満なんやけど、まず第一に仕事として一生懸命していない人は働かなくてもいいと思ってるんですよね」
  • 「仕事は仕事やけえ、ほかの人だって、病気であろうと何であろうと、仕事っちなったら(=仕事となったら)、年齢も関係ないし、資格がもちろんあるけど、もう、この空間、この時間を費やすちゅうことに対しての対価をもらいよるんやけえ、やっぱり、うん、特別扱いは特にするつもりはないんですよ」
  • 「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね。だって働くちゅう以上、そのリスクが伴うんやけえ」
  • 「妊娠がどうのとか、本当に関係なく、最近の自分の行動、言動、いつも、ずっとずっと注意されよったことを、もう一回思い出してもらって、取り組んでもらって、それが、改善が見えない限りは、本当にもう、全スタッフ一緒ですよね。更新はありませんよちゅうのは、そういうことですよね。」
  • 「本当にこんな状態で、制服も入らんような状態で、どうやって働く?」
  • 「きついとか、そんなのもあるかもしれんけど、体調が悪いときは体調が悪いときで言ってくれて結構やし。やけど、もう、べつに私、妊婦として扱うつもりないんですよ。こういうところはもちろんね、そうやけど、人として、仕事しよう人としてちゃんとしてない人に仕事はないですから」

 所長は、上記面談の終了時、原告に対し、改めてできる業務とできない業務を再度医師に確認して申告するように、指示しました。また、所長はこの面談の後、原告から何ができるかできないかを明確に聞くことができなかった旨を上司に報告し、原告や他の職員に、原告の業務内容の具体的な変更を指示することはありませんでした。

③C本部長らと原告との面談(同年12月3日)

 原告は、C本部長およびエリア統括E(以下「C本部長ら」)に対し、「1日10時間の労働はきつい、送迎業務は近場にしてほしい」など述べて、再度、原告の業務の軽減を要望しました。

 C本部長らは、同日以後、原告の送迎業務につき、車いすなどを運ばない近場に限るとの変更をしました。

④医師による安静・加療を必要とするとの診断(同年12月3日)

 原告は、受診していた産婦人科医院の医師から、「切迫早産のため、安静・加療を必要とする」との診断を受けました。

⑤業務軽減措置(同年12月9日)

 原告は、12月の面談の後、自動車で片道15kmの場所に送迎に行った際、腹痛で動けなくなることがありました。また、入浴介助を行うこともありました。

 こうしたことから、夫とともにC本部長と面談した結果、原告は、遠方への送迎や入浴介助の担当を免除されました。また、同月(12月)以降は、原告の出勤日については、原告とC本部長との話し合いにより定められることとなりました。

⑥勤務時間の変更(平成26年1月)

 所長は、原告の各勤務日の勤務時間について、平成25年8月から同年12月までの間は1日8時間から10時間としていましたが、平成26年1月(原告が産休に入る同月19日までの間)は、4時間程度としました。

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著者プロフィール

  • 坂本 直紀(サカモト ナオキ)

    人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。
    ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、書式等を掲載中。
    主な著書に、「ストレスチェック制度 導入と実施後の実務がわかる本」(日本実業出版社)、「職場のメンタルヘルス対策の実務 第2版」(編著、民事法研究会)、『「働き方改革関連法」改正にともなう就業規則変更の実務』(清文社、共著)など。

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