なぜ「会社の“熱”をあげる」ことが重要なのか
曽根圭輔氏(以下、曽根):本日は、「会社の“熱”をあげることがブランディング/広告/採用の最強戦略である」というテーマで、インターナルコミュニケーションの多数の取り組み経験を持っていらっしゃる田原研児さんとディスカッションしていきます。
田原研児氏(以下、田原):これまでCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)やグリー、スマイルズといった企業で、経営企画や人事など、主に組織や人事制度の設計に携わってきました。現在は独立してさまざまな会社のコンサルティングをしています。
スマイルズでは「Soup Stock Tokyo」がよく知られていますが、他にもネクタイを扱う「giraffe」、飲食事業の「100本のスプーン」といった数多くの事業・ブランドを運営しています。また、ホテルも経営しています。どのブランドも、しっかり世の中に刺さっていて、「世の中の体温をあげる」ということと密接に結びついています。
曽根:スマイルズさんは「3つの大切なこと」の一つに、「世の中の体温をあげる」ことを掲げていらっしゃいますね。今日のテーマとも直結する、強いメッセージを持った言葉です。
田原:私は、日々の仕事というのは、先々に起こしたいことの「原因づくり」だと思うんです。自分たちは何のための原因づくりをしているのか、将来どんなシーンをつくりたいのか。また、会社や社員が“熱”を上げることの前提として、「何に“熱”をあげるのか」が明らかなことが、とても大事なポイントだと思います。
曽根:「会社として、何に“熱”をあげるのか」。つまり、企業にとってのビジョンですね。たしかに、組織が進んでいく方向を共有できているかは大事なポイントです。スマイルズの社内では、ビジョンはどのように捉えられているのでしょうか。
田原:スマイルズの「世の中の体温をあげる」という考え方は、現場で働くスタッフ、例えばSoup Stock Tokyoの店舗で働くスタッフにまで、かなり浸透していると思います。店舗にいらしたお客様に対して「スープを提供する」というよりも、「来てくれたお客さんの体温をあげる」という気持ちで接していると思います。「お客様の体温をあげられれば、自分たちの使命は果たした」と思えるような活動をしているんです。
曽根:企業のビジョンが社員一人ひとりの行動に具現化されていて、素晴らしいですね。
田原:店頭にいるスタッフ・社員が、いかに自分たちの熱を上げながら、自分が接する他者の「体温をあげる」かが大事なんです。
曽根:ビジョンを自分事化することが、“熱”になるんですね。世の中にはビジョンを掲げる会社は多数あります。しかし、掲げているだけで、全社に浸透し行動にまで染み渡っている会社は多いとはいえないかもしれません。
田原:スマイルズには多数の事業やブランドがありますが、例えば「PASS THE BATON」で働いている人は、スマイルズという法人の人格とPASS THE BATONというブランドの人格と、そしてもちろん個人の人格も持っています。
そうした複数の人格をつなげていくために、「“PASS THE BATONさん”ってどんな人格なんだろう? どういう行動をする人なんだろう?」ということをスタッフみんなに考えてもらっていました。“PASS THE BATONさん”は、“スマイルズさん”の仲間でもあるので、来店するお客様の体温を上げようとします。そして、“PASS THE BATONさん”がカッコよくて物知りな人格だとすれば、「そこで働く個人も、少なくともカッコ悪い行動はしないんだよな」と考えていく。企業やブランドの人格と個人をつなげていくことを、かなり意識してやっていったんです。
「ミッション、ビジョン、バリュー」を全社に浸透させるためには、やはり相応の時間と労力が必要です。
曽根:海外の事例を見聞きしていると、「リーダーとメンバーが同じページを見ているか(look at the same page)」、すなわち「同じ状況を共有できているか」ということをトップがよく口にするんですよね。コロナ禍で社内コミュニケーションが変化している今、「同じページを見ているか」を確かめることは、この環境変化を乗り切る上でカギになると思います。
田原:メンバーが同じページに対してコミットメントをすると、一体感とパワーが生まれますね。自分が見ている絵と、周りのメンバーが見ている絵が同じだと理解し、この状況にみんなで取り組むんだという意思を実感できた瞬間に、すべてがつながります。
今すぐには実現しなくても、それを実現できそうだという希望が現れると、「自分で」ではなく「自分たちで」変えていくんだ、私たちは変わろうとしているんだということが見えて、一体感が生まれるのだと思います。Same Pageを見ることは、今この時代にとても大事なことだと私も思います。