ピジョンは、母親だけでなく父親も当たり前に育児をする社会の実現を目指し、育休制度の設計や運用により蓄積されたナレッジを公開した。
同社は、改正育児・介護休業法の施行に関連した意識調査や、社会状況の把握を目的とした企業ヒアリングを実施。その結果、男性の育休取得の壁となっている3つの課題が明らかとなったという。(下図参照)
そこで同社は、上記課題の解決に向け、下記の取り組みを進めている。
経済的不安を解消する取り組み
制度の理解を深める個別フォロー
育休取得を検討する際、漠然とした経済的不安を感じる男性社員が多かった。その不安を解消するため、出産予定日の報告を受けた時点で育休制度の詳細を説明すると同時に、育休を取得する場合の「雇用保険育児休業給付金の受給額」や「社会保険料の免除」などの仕組みを、各社員のケースに沿って、給与額の試算なども交えながら個別に説明を実施。会社からの説明後に、「どのタイミングで育休を取得するか」社員とご家族で相談してもらえるよう働きかけをしている。また、出産の際の家庭状況(里帰り出産の有無など)や、夫婦以外の育児サポート体制などについても詳しく聞きながら、育休取得への相談にも乗っているという。
プラスαの制度も戦略的に導入
2006年に「ひとつきいっしょ」という男性でも取得しやすい有給による1ヵ月間の育休制度を導入。1ヵ月間の育休の半分は、会社が付与する「特別休暇(有給)」を利用し、残りの半分は、失効年休を積立てた「積立休暇」を利用する。「積立休暇」が無い社員は、会社から無給の休暇を特別に付与し、雇用保険の「育児休業給付金」を活用。そうすることで、1ヵ月間育休を取得しても経済的な不安を抱えずに済む制度を設計したという。
制度の社内浸透と活用促進~育児休職取得対象者の意識を変える~
育休取得に対して取得対象者を前向きにさせる、トップが発信する強いメッセージ
育休取得対象者の中には「本当は取得したいけれど上司や同僚に迷惑をかけてしまう」や「本当に取得してよいものか」という後ろめたさを抱える社員が多くいた。そこで、育休取得対象者の意識改革のために、「男性も当たり前に育児をする会社でありたい」、「積極的に育児をしてほしい」というメッセージを、トップから全社的に発信。トップから発信されることで、社員全員が共通の意識を持ち、育休取得に対して不安や後ろめたさを感じていた取得対象者本人も安心して育休取得できるようになったという。
プライベートな要素も会社へ自由に自己申告できる
同社には自己申告制度があり、業務状況や社員自身が考える今後のキャリアを年に一度会社へ申告し、申告内容に関する上長との面談の機会も設けている。申告時には、「プライベート・家庭状況について会社に伝えておきたいこと」についても自由に自己申告ができる仕組みとなっている。会社への公式な申告の中に、今後の(本人・配偶者の)妊娠・出産予定や介護の可能性などの情報も組み込み、育休取得申請への心理的ハードルを下げることができているという。
スムーズな業務引継ぎ体制を築くための、妊娠を早く申告できる体制整備
男性社員が育休取得を希望しない大きな理由として、経済的不安の他、「育休期間中の業務に対する不安」や「上司や同僚へ迷惑をかけるかもしれず心配」という声があった。そこで、現場でスムーズな引継ぎ体制を作ってもらえるよう、妊娠を早期に報告してもらう体制を整備。育休取得対象者の「迷惑をかけてしまう」という心配軽減の一助となっているという。
企業風土の醸成~育児休暇取得対象者の上司や同僚に働きかける~
制度の導入期には育休を取得“しない”場合の社長への報告ルールを導入
先述の男性社員が育休取得を取得しない理由により、「ひとつきいっしょ」の制度導入後も、取得率はなかなか向上しなかったという。そのため、育休に送り出す側の上司や同僚の意識も変えていこうと「育児休暇を取得しないと申し出た社員が出た場合は、所属長から社長へ理由とともに報告する」というルールを導入期に設けた。その結果、送り出す側も「きちんと育休を取らせ、育児をしてもらおう」という意識へ大きく変わり、その後は育児休暇取得率100%を維持しているという。
制度を知り、愛着を持ってもらう“仕掛け”
育児休暇の取得対象者以外の社員にも、制度を知って愛着を持ってもらうため、2006年の制度導入時には、制度のネーミングを社内公募で決定した。大々的にネーミングを募集することで、育休制度への社員の理解も深まるとともに制度名に愛着を持つことができ、社員が育休を身近に感じられるようになったという。
「育休」だけが特別にならないようにするための全社的な働きかけ
育休だけを特別扱いすることで、育休以外の理由での休みを取得しづらくなってしまわないよう、「Smart & Smile!Work」と名付けた全社的な取り組みを実施し、働き方の最適化や休みを取得してのリフレッシュなどを推奨。全社員に対して「誰もが休みを取れる・取りやすくなる」ための働きかけを行ったという。
また同社は、2022年の育児・介護休業法の法改正に合わせた社内制度の見直しに向け、子どもを持つ社員へ人事部が声をかけ「社員で作り上げる育児制度プロジェクト」を発足。子育て中や、過去に育休を取得した経験がある社員とその配偶者の声を活かしたことで、実態に即した制度へ改訂することができたと述べている。
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