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インタビュー《人材活用》| 殻を破れ

若手が勝手に育つ抜擢 人材発掘のポイントと反発も挫折なしに推進する方法とは


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 社内の優秀な人材を発掘し、育て、重要なポジションに抜擢し、事業を加速させていきたい——。どの企業も考えていることは同じだ。しかし、実際は優秀な人材を見抜けず、また抜擢しようにも空いているポジションが見つからない。そうして手をこまねいているうちに優秀な若手は、キャリアアップのために辞めてしまう……。この悪循環から抜け出すためにどうすればよいのだろうか。本記事では、社内の優秀な人材の見抜き方、抜擢するための仕組みついて、株式会社ITSUDATSU 代表取締役の黒澤伶氏に話を伺った。

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黒澤 伶氏

黒澤 伶(くろさわ れい)氏

株式会社ITSUDATSU 代表取締役

早稲田大学人間科学部卒。デル株式会社(現:デル・テクノロジーズ株式会社)、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)、コーチングファーム取締役を経て、株式会社ITSUDATSUを創業。「ITSUDATSU(非直線的な現象)を再現性の高い世の中にする」という大義の下、要人材を起点とした独自の組織活性方法で累計300以上のプロジェクトを推進。現在、複数社の取締役CHRO(非常勤)を歴任。

“自分のキャリアは自分でつくる”自律性の高いZ世代

——御社は大手企業からも発掘・抜擢に関する相談が多数寄せられていると伺いました。どういった相談が多いのでしょうか。

 大きく2つあります。1つ目は、新規事業に向けた人材の発掘です。重厚長大な大手企業であっても時代環境の移り変わりが激しい現代では、やはり次の成長の波を起こせるようなイノベーションの種を探しています。大手企業には新卒を軸として、一般的に学歴が高く優秀な人たちが多いのですが、「仕組みが出来上がった既存事業をいかに効率的・機能的に運用するか」という意味での優秀にとどまることが多いそうです。しかし、求めているのは、「これまでの常識や前提にとらわれず、0から1を生み出す姿勢や能力」。その中で社外からそういった人材を採用するのも大事ですが、「イノベーションを起こせるポテンシャルのある人材が社内に(特に若手人材)存在しているかを見極めたい」というご相談が多いです。

 2つ目は、優秀な若手社員の早期離職の問題です。例えば、Z世代と呼ばれる今の20代半ばの社員たちは、東日本大震災や終身雇用制度の崩壊、直近ではコロナという不安な社会情勢を経験してきました。そのため「自分のキャリアは自分自身でつくる」という意識が強く、自律性が高い方が多い印象を受けています。

 ところが、もちろんすべてではありませんが、大手企業の50代・60代といった部長職以上の方の中には「まだ経験が足りないから」「スキルが未熟だから」という理由で若手の抜擢を認めないという方もいます。そのような方たちは組織の中で実績を認められて現在の役職に就いており、これまでの結果が出たマネジメント方法に自信を持っています。しかし、自律性や成長意欲が高い傾向があるZ世代に従来のマネジメントをすると、彼らの心が離れていってしまうことが多々あります。そして、「ここでは自分は思う存分活躍できない」と早々に見切りを付け、職場を離れてしまうのです。そうした状況に悩まれている大手企業は少なくありません。

——すでにポジションが埋まっている中で、新たに若手を抜擢することの難しさもあると思います。その場合は、どのようなアドバイスをされるのでしょうか。

 大前提の話ですが、多くの企業は抜擢の前に「教育が先」だと考える傾向にあるようです。この思考の背景には2つのことが推察されます。まず1つ目は、若手は「自発的に育つ」ではなく「育てなければいけない」というスタンスになっている点。多くの場合、これはやはり経験ベース・コンピテンシーベースのキャリア登用が根底にあるためかと思います。2つ目に、抜擢は失敗できないと考えている点。大手企業は「次世代リーダー育成」といった大規模の育成プログラムを企画することが多いのですが、企画を行う手前、失敗できないという意識が強く働くようです。

 ですので、“小さな抜擢”からお勧めしています。“大きな抜擢”が新規事業のプロジェクトオーナーや子会社の社長、海外支社の立ち上げだとすれば、小さな抜擢はたとえば、オフィス美化のプロジェクトリーダー、全社表彰式のプロジェクトリーダー、リファラル採用のプロジェクトリーダーなどでしょうか。社内で探せば、抜擢できるサイドプロジェクトをいくらでも見つかるかと思います。

 それに、ポテンシャルベースで若手がいきなり大きな抜擢をされた場合、「なぜ、実績もないのにあいつが選ばれたんだ」と社内に無駄なハレ―ションが生まれかねません。そのため、小さな抜擢でリーダーとして経験を積んでもらい、徐々に大きな抜擢につなげていくほうがよいと思いますね。

——抜擢のためのステップを教えていただけますか。

 若手育成の場合はとくに、組織や上司が丁寧に「育てる」のではなく、自ら「育つ」環境をつくることが肝だと感じています。ただし、全員が全員そういった自律的な人材ではありません。そのため、我々がよく行う方法としては、まず自ら育つ素養のある自律型の人材を、弊社のサービスである「KANAME」で発掘します。

 自律性の高い人材は、意識的にもしくは無意識的に自らの願いやビジョンを持っており、内発的エネルギーが非常に大きいことが多いのです。内発的エネルギーが大きいということは「心にゆとりのある人」と捉えることもできます。この「心のゆとり」こそ本人の「覚悟」に直結します。「自社の成長やミッションを果たすことに覚悟を決めている人のする仕事」と「自分の意思が定まらず、与えられた業務のみをやろうとする人の仕事」とでは、成果が大きく変わるものです。まずはこういった組織の要となるべき人材(要〔かなめ〕人材)を見つけ出すことが大事です。

 要人材を見つけ出したら、次は要人材同士の「場」をつくります。お勧めは「組織の最重要課題」について話し合う場です。内発的エネルギーの大きい要人材同士で、より良い仕事を実現するために、より良い自社にするために一歩踏み込んだ話し合いをしてもらいます。話し合いでは、「お客様満足度をもっと高めよう」「ミッション・ビジョンのためにはこういった施策をやってみては」「我が社には休みが足りない!」など、さまざまな意見が出てくるでしょう。その中の、突拍子もないことであったとしても、なぜか腹落ちした納得の発想をプロジェクト化します。

 要人材同士の対話によって生まれたプロジェクトは丁寧に実践し続けます。要人材がプロジェクトで活躍するのを見れば、それに参加する人もどんどん現れるでしょう。そうして内発的エネルギーを社内に「飛び火」させ、また新たなプロジェクトを新たな要人材で立ち上げる。これを繰り返していきます。

——それは面白いですね。そうした若手の抜擢によって成功した事例はありますか。

 これは大きな抜擢の話ですが、ある広告代理店の事例を紹介します。そこは既存の代理店事業から自社サービスに舵を切るにあたって、これまで新規事業のプロジェクトリーダーを実績ベースでアサインしていました。ところが、4回リーダーが交代してもなぜかうまくいかない。そこでKANAMEを使って探したところ、「この人ならうまくいきそうだ」という人材が社内で見つかりました。ただ、それはインターンシップでその企業に参画していた方でした。それでも試しに新規事業にアサインしたところ、1年で数千万円以上の売上を出したのです。その後、その方はさらに優れた実績を上げ、入社1年目で本部長に昇進しました。

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この記事の著者

市古 明典(HRzine編集長)(イチゴ アキノリ)

1972年愛知県生まれ。宝飾品会社の社員、辞書専門編集プロダクションの編集者を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集に参加。その後、2017年7月にエンジニアの人事...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

山田 優子(ヤマダ ユウコ)

神奈川出身。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、大阪に拠点を移しさまざまな業界・職種を経験してきたが、プロジェクトベースの働き方に魅力を感じて2018年にフリーライターに転向。現在はビジネス系取材記事制作を軸に活動しながら、チームで商品企画・開発にも挑戦中。

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