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スタートアップではいつ人事制度を導入すべきか? プロジェクトの進め方と社員インタビューの方法も解説

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 少人数で創業されたスタートアップでも、いずれは必ず人事制度が必要になります。では、いったいいつ制度を検討し、導入すればいいのでしょうか。組織と人事のコンサルタントとして活躍する金田 宏之氏の著書『スタートアップのための人事制度の作り方』(翔泳社)では、社員20人前後になった頃が目安だとされています。今回は本書から、スタートアップが人事制度を導入すべき時期とそのプロジェクトの進め方、さらにメンバーへの現状分析インタビューの方法が解説されたパートを紹介します。

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 本記事は『スタートアップのための人事制度の作り方 キャリア開発を促し、自社のバリューを浸透させる』の「第2章 スタートアップ流の人事制度プロジェクト」から一部を抜粋したものです。掲載にあたって編集してます。

スタートアップでは、いつ人事制度を導入すべきか?

 人事制度に関する問い合わせを受け、初めてお会いするスタートアップの経営者の方に最も質問されるのが「いつ頃、人事制度を導入するのがいいか?」「社員が何人ぐらいになったら、人事制度を検討した方がいいか?」です。

 ルールであまり縛りたくはないけれど、会社として人事制度が必要なのはわかるし、最近の採用面接でも「評価制度はありますか?」「給料は上がりますか?」と聞かれる場面も増えていることから、社内外問わず人事制度の導入について話題に上っており、その導入時期について悩んでいる、といった背景です。

 若くして起業した経営者は、会社員として人事制度を経験したことがないケースもあります。仮に起業する前に働いていた会社に人事制度があった場合でも、人事制度上の公式なルールで評価されたことはなく、「オーナー社長の一存で給料がガツンと上がった」といった、きちんと人事制度が機能していなかった状態もめずらしくありません。

 一方、大企業で長く経験を積んだ後に起業した方であれば、年功序列でほとんど差のつかない人事制度に非合理さを感じていることもあります。

 このように、あまりポジティブな印象をもたれにくい人事制度を、経営者としていざ主体的に導入しようとなった場合、最初に悩むのが「導入時期」です。

人事制度の導入タイミングは、社員数で「20名前後」が目安

 私自身の経験から導かれた数字は、社員数で「20名前後」です。このタイミングで人事制度が組織内で運用され始めている状態を「望ましい」と定義しました。もちろん、50名以上や100名弱のタイミングで人事制度を導入したケースもありますが、導入のタイミングとしては遅かったと感じています。

 次節で詳しく説明しますが、人事制度の設計期間は約4〜6カ月を想定しています。もちろんさまざまな変数によって期間は変わりますが、この設計期間も考慮して導入時期を考えることが必要です。推奨案は、10名前後で人事制度の設計を開始し、設計期間を経て20名前後になるタイミングで人事制度をトライアル運用するスケジュールです。

図表1 スタートアップが人事制度を導入する最適なタイミング
図表1 スタートアップが人事制度を導入する最適なタイミング

 トライアル運用とは、実際に人事制度を運用してみて、その妥当性を検証し、必要に応じて改善することを目的とした期間を指します。本番同様に運用しますが、運用する過程で見えてきた違和感や不具合については、人事評価や報酬決定の際に考慮したり、調整したりすることを認めます。人事制度に対する課題を集め、改善を検討し、翌期以降の本番運用に活かしていきます。

 もちろん、本番運用後も試行錯誤は続きますが、違和感や不具合に対して一定期間考慮することを前提にしたトライアル運用をはさむことで、制度導入に対するメンバーの不安を軽減してくれることになります。

 こうした改善サイクルを積み重ねることで、会社側もメンバー側も人事制度に対する理解が深まり、信頼できる制度へと発展していきます。組織の規模が50名を超えて100名以上になる頃に、このような「人事制度を育てていく文化」が根付いていると、人事制度がその後の組織拡張の際に足を引っ張ることを防いでくれます。

スタートアップでの人事制度プロジェクトの進め方

 私はクライアントをスタートアップに絞っているため、ほとんどのケースで「なるはや(なるべく早く/最短距離)で、人事制度を導入したい」と依頼を受けます。スタートアップは「実行」と「スピード」が生命線なので、私もその気持ちに応えるべく、制度設計のアウトプットや議論の進め方を型化(標準化)して、導入までの期間を短縮化してきました。本節では、プロジェクトの進め方に関する型について説明していきます。

【プロジェクト体制】経営陣はマストで参加する

 人事制度プロジェクトは、会社のルールブックを定める一大プロジェクトです。釈迦に説法かもしれませんが、経営陣にはマストで参加してもらうことをお願いしています。「もちろん入るつもりです」と仰ってくださるケースもあれば、「え、管理部門のトップだけではダメですか?」といった声を聞くこともあります。

 以前は「ダメではないですが、できれば参加してほしいです」と強制はしていませんでしたが、経験上経営陣なしでの体制ではうまくいかないことがわかったため、現在では「ダメです」とはっきり伝えるようになりました。

 経営陣の参加を強くお願いする背景には、次の理由があります。

 等級判定や人事評価、報酬決定といった人事権には、ビジョン・ミッションの実現や事業戦略の実行に向けて組織を方向付ける強力なパワーがあります。この権限の執行を通じて、経営陣は人・組織を動かします。しかし、組織の規模が大きくなるにつれて、全メンバーに対して経営陣だけで人事権を執行することが物理的に不可能になります。

 そこで、経営陣からマネージャーに人事に関する権限を移譲します。この権限委譲を円滑に実行するためのルールブックが人事制度なのです。人事制度の方針や基準、運用プロセスについて、権限を移譲する立場である経営陣の考え方や思いを正確に反映するためには、意思決定だけではなく議論の過程にも参加してもらうことが必要不可欠だと考えています。

 参加を躊躇するケースでは、人事制度が与える組織への影響度や設計・導入の難易度に関する認識がそろっていない可能性があります。ただし、このような認識のズレに対して、いくら説明を重ねても言葉や論理だけで腹落ちさせることは難しいものです。

 そこで、経営陣がプロジェクトの参加に対してためらいの気持ちがあることは承知しておきながらも、最初の1~2カ月だけでもプロジェクトに参加してもらうようお願いしています。たとえわずかな期間であってもプロジェクトに参加してみれば、人事制度の影響度や難易度を感じ取ることができ、経営陣が参加しないことは「あり得ない」と自分自身で理解してくれるはずです。

 なお、人事制度は全メンバーを巻き込むプロジェクトであるため、社内の広報担当として人事メンバーに入ってもらえると心強い体制になります。20名前後の組織では人事メンバーがいることは稀なので、多くは採用担当者がアサインされます。

 ただし、採用と人事の仕事は、ビジネス部門における営業とカスタマーサクセスぐらいの違いがあるため、採用担当者に人事制度に関する社内広報を任せきりにすることはできません。社内広報についても、経営陣は担当者に丸投げすることはせず、当事者意識をもって取り組んでほしいと考えています。

【会議体】人事制度に関する定例会議は週1回90分

 隔週でも月1でもなく、週1回の頻度で定例会議を実施します。時間は90分です。会議が90分というのは長過ぎると思うかもしれません。しかし、人事制度には明確な「正解(答え)」がないため、各自が自分自身の経験を基に意見を述べやすい領域であり、議論が多方面に広がりやすい傾向があります。「これが正しいと思う」ではなく、「自分はこうだった」と議論が拡散しがちなのです。

 そのため、人事制度に関する「なぜ?」を重点的に議論することで、表面的ではなく、本質的な理解と納得を引き出すことが大切です。そもそもの前提を擦り合わせ、制度本体の議論に入っていくため、必然的に定例会議の時間は長めになります。

 また、主要な理由とまで言い切れませんが、人事の会議体ゆえの理由があります。それは定例会議の際、現場で起きたさまざまな人事課題について相談がもち込まれるということです。「Aチームの残業時間について相談したい」「Bさんの活躍が素晴らしく、早めにマネージャーにしたいと思っているが、みんなの意見を聞きたい」「Cさんから退職の話があった」など、他の会議体では議題に取り上げにくい話が、人事制度の定例会議にもち込まれます。

 本題と違うので、別の時間で対応することが本筋かもしれませんが、こうした人事課題は時間を確保しないと放置されがちです。その都度会議を設定するのも放置される要因になるため、定例会議のリズムをつくってその場でタイムリーに対応できるよう、会議体の時間に少し余裕をもたせておくことも大切です。そのため会議時間60分は短く、30分ではまったくプロジェクトが前に進まないので、最低でも90分は確保できるように準備をお願いしています。

 週1回はまとまった時間を「人事を考える時間」として確保し、その時間は人事に集中するように時間の使い方を習慣化できると、人事領域で不定期に発生するさまざまな問題に対して慌てずタイムリーに対応できるようになります。

 また、組織拡張のフェーズで問題が複雑化・深刻化しても、ルーティンの1つとして向き合うことができるようになります。先送りしようと思えばできてしまう人事領域の問題だからこそ、習慣化による問題解決のアプローチが効果を発揮します。

 最後に、会議体の名称を決めます。人事制度の検討を定例化して多くのリソースが投下されていることを全メンバーに共有するためにも、会議体にわかりやすい名称をつけることには意味があります。参考までに、会議体の名称に関する事例を挙げておきます。

会議体の名称事例

  • 人事定例ミーティング
  • 人事制度定例
  • 人事制度プロジェクト定例会
  • HR定例
  • HR Planning定例

【アジェンダ】アウトプットリストから逆算する

 「4〜6カ月もかけて何をつくるの?」と思っている人もいるかと思います。しかし、「モノ」ではなく「制度」、つまりルールをつくるため具体的なイメージを共有することは難しいのです。最終的には、ドキュメントやスライドでつくられる設計書がアウトプットの核となります。

 人事制度の3つの柱である等級制度・評価制度・報酬制度について、主なアウトプットを一覧化してみました。このアウトプットが、人事制度の定例会議で議論されるアジェンダとなります。

図表2 人事制度のアウトプットリスト
図表2 人事制度のアウトプットリスト

 人事制度の「型」を、クライアントのビジネス、戦略、組織、カルチャーなどに合わせてカスタマイズすることで、人事制度をアウトプットしていきます。自社のオリジナルを存分に反映させた方が良いところもあれば、あまり独自性にこだわらずセオリー重視でやった方が良いところもあるので、導入スケジュールを考慮しながら、プロジェクトを進めていきます。

【スケジュール】制度設計の期間は4~6カ月が目安

 通常、制度設計に4~6カ月、トライアル運用に6カ月を予定しています。トライアル運用後の本番運用までに10〜12カ月、つまり1年程度を見積もったスケジュールです。もちろん、クライアントの依頼次第でスケジュールは変動します。

 ただし、私は、導入タイミングでいろいろと手を広げることは賢明ではないと考えており、まずは人事制度の型を活用し、半年程度で人事制度の設計を完了させてトライアル運用に入ることを推奨しています。

 なぜなら、運用する中で軌道修正したり、改善したりするアジャイルな進め方が「スタートアップらしさ」であると考えているからです。

 4~6カ月と幅があるのは、現状分析・概要設計のパートを含めるか否かの違いです。時間的に余裕がありプロジェクトを丁寧に進めたい場合は、現状分析としてメンバーへのインタビューを実施し、組織の課題や人事制度への要望・期待を洗い出します。

 このプロセスは大切であることは間違いありませんが、制度導入までの検討期間が足りない場合は、省略することも可能です。その場合、最短で制度設計を4カ月で完了させて、トライアル運用に入ります。

 「制度導入までの検討期間」に影響を与える要素は、主に「社員数」と「決算月」の2つです。なお、人事制度プロジェクトにアサインできる社内リソースも強く影響を及ぼす要素で、スタートアップで十分にリソース配分できるケースはほとんどないため、主な要素からは除外しました。

 それでは、2つの要素について説明します。まずは「社員数」についてですが、社員数が増えると制度設計の負担が大幅に増します。ざっくりと定義すると、50名未満であれば4カ月で可能、50名以上だと6カ月以上かかることもあり得る、といったイメージです。あくまでも50名はわかりやすい目安ですが、人数が増えれば増えるほど導入時の設計領域が広がり、複雑さに比例して説明コストも重くなります。

 「決算月が影響する」というのは、期の節目を利用して人事制度の運用を管理するためです。例えば、12月決算の場合、1〜6月が上期、7〜12月が下期となります。プロジェクト開始が1月の場合、6月までの6カ月間を設計期間にあて、制度運用は7月からスタートです。3月開始の場合は、現状分析と概要設計を省略し、4カ月間の設計期間で何とかやりくりする方法を考えます。

 5月開始の場合は、7月の下期スタートまでに5〜6月の2カ月しかないため7月から人事制度のすべての領域(等級・評価・報酬)でトライアル運用を開始することはできません。この場合、社員数も勘案しながら、等級制度や報酬制度の一部を設計するなど、段階的な制度導入を検討します。

図表3 人事制度の設計期間(目安)
図表3 人事制度の設計期間(目安)

現状分析インタビューの手法

 制度設計に着手する前に実施する、現状分析インタビューの方法について紹介します。人事制度がなくドキュメントやデータを通じて会社のことを把握できないケースでは、メンバーへのインタビューを通じて会社の仕組みや文化の把握に努めます。社外の方が人事制度を設計する際の方法ですが、社内の方でも十分に応用可能です。

インタビューの実施概要

 インタビューは、次のように実施します。

  • 1対1形式
  • 1名につき45分
  • オンライン実施可
  • お互いに質問リストを見ながら進める(質問リストは事前公開しない)
  • インタビュー冒頭に「いただいた意見は、プロジェクトメンバーに記名式で共有します」と伝える

 いくつか簡単に補足しておきます。

 インタビューは1対1形式で本音を引き出します。インタビューを何度も繰り返す中で、30分だと短く時間不足になるケースもある一方、60分だと長く冗長になってしまうため、45分に落ち着きました。45分すべてを使い切ることなく、少し早めに終わることもあります。私の場合、45分×2回の90分と30分休憩を合わせた120分を1セットとしてスケジュールを組んでいます。

 質問リストは事前に公開せず、インタビュー内で質問リストを読み合わせながら、その場で考えて意見をもらいます。事前に質問リストを公開すると、人によっては回答を見繕ってしまい、本音とは言えない意見が出てくることがあるからです。また、質問リストを読んでもらったり、何か考えてもらったりするなど、通常業務の邪魔にならないように最低限の時間で進めたいという意向もあります。

 なお、インタビューは記名式です。「誰の発言か」がわからないと、発言の意図や背景を正確に把握できないことがあり、それなりに時間をかけて実施する現状分析インタビューの費用対効果が低くなってしまうからです。

 また、スタートアップで人事制度を導入するタイミングだと、ほとんどの場合人数が少なく各メンバーの担っている仕事も明確なため、プロジェクトメンバーにインタビュー内容を公開すると、発言内容から「誰が言ったか」がだいたいわかってしまう傾向もあります。「匿名にする」と宣言しておきながら、相手には記名で伝わっている状態の気持ち悪さもあります。そのため、「あえて隠す必要はない」というのが私のスタンスです。

 また、スタートアップは個々人がスピーディかつ自律的・有機的に活動することが組織戦略上の差別化要因になるため、その前提となる情報公開への前向きな姿勢、いわゆるオープンであることは組織のカルチャーとして重要であると考えています。メンバーへのインタビューだけでなく人事施策全般について、まずは「記名式」で検討し議論を経た上で「匿名」に舵を切るという考え方を推奨しています。

インタビューを通じて知りたいこと

 インタビューでは、質問リストを見ながら、上から順番に質問をしていきます。人によって話してくれる内容の質や量に違いはありますが、45分に収まるようにファシリテートしていきます。質問リストの内容については、プロジェクトメンバーである経営陣に確認してもらい、これ以外に聞きたいことがあれば追加することもあります。

 それぞれの質問を通じて、私が知るべきだと思っていることを言語化しました。

  1. これまでの職務経歴をざっくりと教えてください(1~2分)
  2. この会社に入社(転職)した理由は?
  3. 入社前と入社後で感じたギャップは?
  4. 仕事は楽しい?
    【選択肢3つ:①楽しい/②どちらとも言えない/③楽しくない】
  5. あなたの今現在のミッション(やるべきこと・目標)は?
  6. 会社の強みは?
  7. 会社が大事にしている価値観(判断や行動の基準)は?
  8. 会社に対して、KPT(Keep:良い点・継続してほしい点、Problem:課題・改善した方が良いと思うこと、Try:今後やった方が良いと思うこと)でフィードバックをお願いします
  9. 人事制度(等級制度・評価制度・報酬制度)について意見や要望があれば教えてください
  10. その他、採用、オンボーディング、1on1、情報公開、働き方、福利厚生などで伝えておきたいことは?
  11. その他、何か意見・質問あれば!

1. これまでの職務経歴をざっくりと教えてください(1~2分)

 どんな経歴の方が組織に集まっているかを把握します。例えば大企業出身者が多い場合、オーソドックスな人事制度を経験しているので、スタートアップらしい人事制度に対して違和感が出やすくなります。そもそも人事制度が形骸化している場合、制度導入に懐疑的なこともあります。そのため、大企業との違い(背景)であったり、人事制度の目的や効果、形骸化する理由と形骸化させないための工夫を丁寧に説明することを心がけています。

2. この会社に入社(転職)した理由は?

 会社の魅力を把握します。事業としての価値、経営陣、成長機会など、ある程度回答に傾向が出るものですが、会社を理解するために役立てます。

3. 入社前と入社後で感じたギャップは?

 表面的には見えにくい会社の特徴を把握します。ポジティブ・ネガティブどちらの意見も出てきます。ギャップに対する言及が会社のカルチャーと同義になるケースも多く、早めに知っておくことで、プロジェクト運営に役立つことが多々ありました。

4. 仕事は楽しい?
【選択肢3つ:①楽しい/②どちらとも言えない/③楽しくない】

 「仕事は楽しい」と思っている人の割合から「スタートアップらしさ」を把握します。経験上伸びるスタートアップは皆さんつらい、苦しい、大変な思いをしながらも仕事を楽しんでいます。20名規模でインタビューをした場合、「①楽しい」が9割を切るようであれば(3名以上が②や③と回答する)課題として捉えるべきかを議論します。課題とする場合、採用に原因があるのか、入社後のマネジメントに原因があるのか、など原因分析が必要です。

5. あなたの今現在のミッション(やるべきこと・目標)は?

 目標設定の状況を把握します。人事制度はなくても自分の目標がクリアになっており自律的に活動できる状態になっているかどうかを確認するためです。目標の中身を聞くことで、その粒度も把握できます。目標設定の仕組みを議論する際、現状との違いを説明できるとプロジェクトメンバーの理解促進に役立ちます。

6. 会社の強みは?

 「強みを伸ばす」という考え方の下、制度でさらに強化できそうな「強み」を把握します。制度設計の「なぜ?」を合理的に説明するための理論武装に役立てます。

7. 会社が大事にしている価値観(判断や行動の基準)は?

 インタビューのタイミングで、バリューが設定されているケースが以前より多くなりました。その場合、設定されたバリューの中で、特にどのバリューが大事にされているか、またメンバーはそれをどんな場面で、どんな判断や行動を見て感じるかを把握します。バリューを評価制度に反映させる際、バリューをより一層具体化させて、評価基準に落とし込む作業に、この情報を活用することがあります。

8. 会社に対して、KPT(Keep:良い点・継続してほしい点、Problem:課題・改善した方が良いと思うこと、Try:今後やった方が良いと思うこと)でフィードバックをお願いします

 Keepを通じて、今後も変えずに残していきたいところを把握します。特に「質問6・会社の強み」につなげられるように、今後も変えない方が良いことを吸い上げ、同時にその理由も言語化していきます。普段考えることが少ないので沈黙しがちな場面ですが、インタビュイーの自組織の理解促進のためにも、沈黙を許容しながらじっくり考えてもらいましょう。

 Problemでは、会社の課題、主に組織課題を把握します。人事制度設計とは直接関係ないこともありますが、現状の組織で起こっていることを洗いざらい吸い上げることで、組織の人材レベルについて仮説をもつことができます。経営視点や中長期の時間軸、他者の気持ちの理解やきれいごとを抜きにした現実問題への向き合い方などについて、課題に対する発言内容から読み解いていきます。

 最後にTryです。Problemに対する解決策やネクストアクションを、自らの経験を交えて話してくれることが多い傾向があります。インタビューを受けてくれている方たちが日頃からこうした課題に対して、どれほど当事者意識をもっているか、課題の先まで考えているか、について分析します。

9. 人事制度(等級制度・評価制度・報酬制度)について意見や要望があれば教えてください

 ここでやっと人事制度の話になります。「わからない」「特にない」といった意見が思いの外、多いものです。無理に深掘ることはしない代わりに、「過去の会社で機能していなかったと思う人事の仕組みは?」「どうして機能していなかった?」などと聞いていきます。できあがった人事制度を説明する際、「こうします!」ではなく「こうはしません!」と伝えることも納得感につながります。人事制度を運用する前の段階で「こうします!」と言われても、正直「良いのか悪いのか、わからない」というのがメンバーの本音です。逆に「こうはしません!」という説明の方が人によっては腹落ちしてくれたりするものです。

10. その他、採用、オンボーディング、1on1、情報公開、働き方、福利厚生などで伝えておきたいことは?

 人事関連で相手があえて取り上げたいことがあれば吸い上げます。普段、会社に対して発言する機会がなかったり、あえて発言するほどのことでもなかったりと吐き出せずにモヤモヤしていることがあれば吸い上げるイメージです。

11. その他、何か意見・質問があれば!

 最後の締めです。「特にありません」「大丈夫です」で終わるケースが多い中、雑談が始まる場合もあれば、伝えきれていなかった人事関連の話が始まったり、インタビュアーについて質問が投げかけられることもあります。ときどき「オフレコでお願いしたいんですが……」ということもあります。最後まで話を聞いた上で、会社側に情報共有し解決した方が良いと判断したら、相手にその旨を正直に伝えます。本人の了承が得られれば会社側に報告する一方、了承が得られなければ聞くだけで終わることになります。

 インタビューが終わったら、それぞれの質問から得られた意見をリスト化し、自分なりの考察を構造化します。そして、プロジェクトメンバーへフィードバックして問題点を話し合っていきます。大半の場合、人事制度の具体的な設計内容に関する議論というよりは、自分たち自身の理解や現状の組織課題に関する議論がほとんどです。

 この議論を通じて、人事制度で解決できることと人事制度では解決が難しいことを切り分けていきます。例えば、採用領域に原因がある場合、人事制度を通じて直接的に解決することはできません。制度以外でやるべきことの優先順位とスケジュールも合わせて検討していきます。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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