小川 高子(おがわ たかこ)氏
パナリット株式会社 代表取締役CEO
新卒でワークスアプリケーションズに入社。Google Japanに転職後は採用·人材開発業務に従事し、2015年よりGoogle米国本社にてStrategy & Ops部における Sr.プロジェクトマネジャーとして、Googleの全社的な人事制度改革、人事戦略業務に従事。2014年のAPAC People OperationsサミットでMOST INNOVATIVE & CREATIVE AWARDを受賞。2019年にパナリット(現パナリット株式会社)を共同で立ち上げ。
トラン・チー(Chi Tran)氏
パナリット株式会社 代表取締役COO
BCG・リクルート・Googleを通じ、データを軸とした意思決定プロセス構築・インサイト発掘・ソリューション開発に強みを持つ。リクルートでは草創期の海外事業のビジネスパートナーとして、11拠点の事業計画・KPI・オペレーション設計などの事業推進を支援し、当時最年少の幹部候補に選任。GoogleではマーケティングROIの効果検証プロセス設計・実行支援のほか、感性(クリエイティブ)とデータを融合した新規ソリューション開発をリード。APAC地域のベスト5コーチにも選出。2019年にパナリット(現パナリット株式会社)を共同で立ち上げ。
グーグルで内製したツールより洗練されたUI
——御社の設立に至る経緯、またパナリットの開発に至った経緯についてお聞かせください。
小川高子(以下、小川) 当社の創業者のダニエル・J・ウェストは、アップルやウーバー、モルガン・スタンレーなどで人事管理を担当していた経歴の持ち主です。その後、人事コンサルタントとして活動する中で、人事基幹システムを構築する際に、毎回データプラットフォームからシステムを構築することに対して時間やコスト、使い勝手などの面で不満を持っていたところ、「世の中にないのならつくってしまえ」という発想でパナリットを開発するに至りました。
私はグーグルで7年以上にわたり人事分析やマネジメントを担当し、ダニエルとは共通の友人を介して知り合いました。米国IT企業の人事というのは意外と狭い世界なんですよ。当時、ダニエルは「ピープルアナリティクス」に興味を持っていて、その領域で最先端と認識されていたグーグルで働いている私に、開発中のツールについてアドバイスをしてもらえないかと依頼してきたんです。実際、グーグルでは採用も人事制度も設計・実装・変更のあらゆるプロセスでの意思決定にデータが不可欠であり、共通言語として現場の納得感の醸成にも活用されていました。それがグーグルのカルチャーにもなっていましたね。
そんなときにダニエルに見せてもらったツールは、まさにグーグルが社内利用用途で内製していたPeople Viewというツールにそっくり。UIなどはそれより洗練されていて、アナリストでなくても使いこなせそうだと可能性を感じました。そのフィードバックをしたところ、いっしょにやらないかと誘われて、私もパナリットに共同創業メンバーとしてジョインしたという次第です。
——ジョインする時点でもう、パナリットを求めている企業の具体的なイメージを持つことができた?
小川 そうですね。プロダクトのベータ版と呼べそうなものは完成していましたし、これはもう早々にユーザーに使ってもらいながらフィードバックを集めるべき! と。その中で、具体的にどのようなユーザーがコアターゲットになるか、仮説ができてくると思いました。実際、私が入社してすぐに日本の企業に紹介したところ、まだ日本語対応ができていないにもかかわらず、メルカリさんなどの感度の高い会社に次々に導入されたのです。それで私自身も改めて、パナリットという製品と日本市場の相性に対する自信を深めることができました。
——具体的にはどんな企業さんからの反応が良かったのですか。
小川 基本的には人的資本経営に対して意欲的であることが前提ですが、従業員500人以上の急成長中で、もはやアナログな手法では人事データを把握できなくなっている企業さんでしょうか。そうした企業は、人事データをタイムリーに把握して施策設計に活用するニーズを切実に感じており、「渡りに船」という形でご導入いただくことが多かったです。1回目の商談で即決いただくような企業さんもありました。
ただ、ニーズが顕在化している企業についてはスムーズに導入が進んだ一方、半年ほど営業活動していくと、「人事がデータを活用する価値」に気づいていない企業が、日本にはまだ多いことに気づきました。私は人事がデータドリブンにならないのは、「それを支えるツールがなかったから」と思っていたのですが、実はそうでなかった。「なぜ人事がデータを活用するの?」「活用する意味があるの?」という反応が返ってきて、市場がまだまだ立ち上がっていないことを実感しました。それが2019年くらいでしょうか。そこからは「人事のデータ活用」についての啓蒙・啓発活動から行うようになりました。