荒金泰史氏の前連載「経営人事とエンゲージメント再考」も公開中。
中間管理職の多忙さがパワハラにつながることもある
最初に、ある事例を紹介する。
ある企業の人事Jさんは、気が重かった。今日これから、旧知の仲である営業部門のミドルマネージャーKさんに懲戒処分を言い渡さなければならなかったからだ。原因は、部下Lさんに対するパワーハラスメントである。
JさんはLさんからパワハラの訴えを受けて、Kさん・Lさんだけでなく、彼らの職場の同僚にもヒアリングを行った。さまざまな視点の話を聞いて分かったのは、このパワハラは「ささいなすれ違い」の積み重ねにすぎないということだ。前提として、上司Kさんにパワハラの意図はまったくなかった。職場の同僚から見る限り、KさんはLさんにも他のメンバーと同じように接しており、他のメンバーはパワハラを受けたとは感じていない。Lさんに特別厳しい発言をしていたわけではないのだ。しかし一方で、Lさんが切り取った事実や発言だけを見れば、パワハラだといわれても仕方がない面があった。
問題は、KさんとLさんの間で、日頃のコミュニケーションが十分に取れていなかったことにあった。Lさんは最近、自身の配属や会社の方針に不満を募らせており、たびたび職場で不満を口にしていた。しかし、KさんはそんなLさんの精神状況を把握したり、フォローしたりできていなかった。そうしたある日、LさんはKさんの発言に過敏に反応してパワハラを訴え、人事部を巻き込む騒動になったのである。2人の間に信頼関係や意思疎通があれば、このようなことは決して起こらなかっただろう。
根本的な原因は、Kさんが忙しすぎて、Lさんのピープルマネジメントに気が回っていなかったことにある。Jさんはそう結論づけて、残念で悔しい気持ちを抱えながら、Kさんとの会議に向かった。