インタビュイー
岡本 信也(おかもと しんや)氏
株式会社ベネッセi-キャリア dodaキャンパス事業本部 統括部長・dodaキャンパス編集長
新卒で総合商社系列の食品専門商社に入社し、国内外を飛び回る生活を送る中でビジネスの基礎を学ぶ。2006年に株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社し、人材紹介事業で商社・不動産領域の法人営業として採用支援などを経験。その後、転職メディア事業で、中小企業を担当する法人営業組織に従事後、2018年からベネッセi-キャリアに出向。新卒オファーサービス「dodaキャンパス」の立ち上げを経験後、同事業部の営業部長を経て、2023年4月に事業本部長、dodaキャンパス編集長に就任。
大学3年生の3月時点で内定保有率40%、企業は早期に学生との接点を持つことが重要
——御社が実施した「企業の新卒(25卒、26卒)採用計画実態調査」にある本選考に向けた採用計画確定(予定)時期の調査結果において、25卒は「23年9月頃」までの回答合計が全体の37.7%に対し、26卒は「24年9月頃」までが42.7%となり5%増加しています。採用活動の早期化は確実に進んでいると見てよろしいでしょうか。
そうですね。採用活動の早期化は急激に進んだわけではなく、毎年じわじわと進んでいます。その理由は、3月1日の「就活解禁日」に合わせて主要なナビサイトがオープンする時点で、大学3年生の内定保有率が例年上昇しているからです。今年(25卒)は約40%の学生がすでに内定を保有していました。一般的に、内定を保有している学生はエントリー先を絞っているため、必然的にナビサイトのエントリー率が低下します。そのため、ただ待っているだけでは学生が集まらないと考える企業が増え、学生へのアプローチを早期化する傾向にあります。
——なぜ大学3年の3月の時点で内定保有率が高いのでしょう?
経団連に属している日本の主な大企業は、現在も就活ルールに基づいて6月(大学4年生)から内々定を出し始めますが、経団連に属していないメガベンチャーや外資系企業などは、より早い時期から内定を出しているからです。さらに、「内定」という言葉を使わずに学生とコミュニケーションを取り、実質的な内定を早期に出している企業もあります。これらの理由から、大学3年生の3月時点で内定保有率が高くなっています。
——そうなると、企業が学生との接点を早期につくるためにインターンシップの開催が重要になりますか。
1つの戦略としては有効ですね。2023年から三省合意(文部科学省・厚生労働省・経済産業省)により、企業は5日間以上のインターンシップに参加した学生の適性や能力を、採用選考の判断材料とすることが認められました。5日間以上のインターンシッププログラムを用意できる企業においては、インターンシップを採用活動に直結させる動きが出てきています。
ただし、企業はインターンシップが学生の学業の妨げにならないように、学生の長期休暇を活用することが前提となります。そのため、多くの企業が大学3年生の夏季休暇を利用してインターンシップを実施しています。しかし、この期間内に学生が参加できるインターンシップの数には限りがあるため、必然的に学生はインターンシップ先を絞り込むことになります。その結果、インターンシップに来る学生の獲得競争が過熱化することが考えられます。各社はより魅力的なインターンシップのプログラムを用意する必要があります。
——一方、インターンシップを実施するために人材リソースを割くことができないといった企業も少なくないはずです。そうした企業が学生と早めに接点を取るにはどうすればよいでしょうか。
インターンシップが始まる前の春から夏にかけてのタイミングでオープンカンパニーを複数日設定し、学生たちにフランクに参加してもらうことをお勧めします。オープンカンパニーとは「5日間未満開催のもの」を指し、これまで各社が実施していた会社説明会や職場見学、グループディスカッションなどが含まれます。
夏のインターンシップ前の時期は、まだ志望動機が定まっていなかったり、自分の学んできたことをうまくアウトプットできなかったりする学生も多いです。そうした学生たちに寄り添いながら、自社や業界の魅力を伝えて個別に接点を強化していくことが肝要です。企業はこうした地道な努力の積み重ねが大切だと考えています。
——つまり大学3年の始めの時期に、いかに自社や業界の認知を獲得するかが勝負ということですね。
おっしゃるとおりです。たとえば、我々の提供するサービスにおいて学生の認知度が低いBtoB企業に登壇いただいたところ、通常は平均20%程度のオファー承諾率(企業側が送る選考案内などを学生が承諾する比率)が、登壇翌日は50〜60%に跳ね上がったことがありました。学生から「こんなにおもしろい仕事があったのか」と感じてもらえたようです。学生にとって「知らない企業は選択肢に入らない」ため、自社の採用選考の母集団形成につなげるためにも、早めのアプローチ設計が重要だと感じています。