潜在課題へのアプローチ
2つ目の事例では、組織サーベイ上で顕在的な課題があったわけではなく、今後の組織拡大を見据えたときの潜在的な課題に注目し、マネジメント力向上に向けて行った取り組みをご紹介します。
この事例に挙げる組織では、現在50名の組織が1年後には100名規模になる採用計画を実施する予定でした。そのためには、現任チーフの育成と新任チーフの輩出に両輪で注力していく必要がありました。組織サーベイのスコアからは目立った課題はなく、安定的に組織運営を行えていましたが、起こり得る課題への未然予防として取り組みを始めました。
業務特性に合わせて注力ポイントを設定
この組織は、業務内容的にやりがいを持ちづらい特性があり、組織サーベイの「仕事へのやりがい」に関する項目においても全社平均並みという結果でした。これに対しマネジメント・チーフと人事は今後の組織拡大を見据え、新たに約50名を迎える風土を整えていくことが重要だと捉えて、仕事へのやりがいを高めていくことを注力ポイントと定めました。
まずはエンゲージメントの向上と人材の定着および成果の最大化を図ることに焦点を当て、組織サーベイ結果のフィードバックでは「仕事へのやりがい」に関する項目を中心に、スコアを確認・議論していくこととしました。また、各チーフがマネジメントするメンバー数が増えると、やりがいは下がる傾向にあるため、新たに9名のチーフを登用しました。
各々の取り組みを共有・議論し、マネジメント施策に再現性を持たせる
現任チーフと新任チーフが入り交じるこの組織では、組織全体で仕事へのやりがいを高めていくことと同時に、チーフの育成も重要でした。そこで、毎月チーフが取り組んだ「やりがいにつながった施策」を洗い出し、共有・議論する研修を行いました。
この研修では、各施策の良かった点や改善できる点を洗い出し、チーフ同士で共有・議論することで施策をナレッジ化し、再現性を持たせることが狙いとなっています。研修は、人事からチーフに求める役割や行動を具体例を織り交ぜながら解説する座学パートと、実際に取り組んだ施策や悩み・課題について話すディスカッションパートで構成されています。
インプットとアウトプットを織り交ぜながら実施することで、チーフ同士で議論・相談し合える関係性が構築されるとともに、解決策の幅が広がります。また、マネージャーがHow toを伝えるのではなく、チーフ同士で日々の取り組みやアイデアを共有することで、同じ目線で実践的なマネジメントにつなげられます。
こうした施策を実施した結果、組織規模が2倍になった後もサーベイ結果の目立った悪化はなく、安定的な組織運営が継続されています。組織サーベイのフィードバックの場がスコア共有の場にとどまらず、マネジメントに関わる相談・議論を建設的に行い、仕組みを生み出す場にできたことがこうした結果につながったと考えています。
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今回は組織サーベイを活用した顕在課題・潜在課題へのアプローチについて、具体的な事例を挙げながらご紹介しました。どちらの事例についてもポイントは、組織サーベイを単なる数字と捉えずに、結果を起点に課題を特定し、マネージャー・チーフと共同で施策につなげたことです。
組織のありたい姿を実現するために、人事がリードして具体的な施策を推進していくことも時には必要です。そのためには、定期的なサーベイに基づいた振り返りを行い、組織全体の継続的な改善を目指す姿勢が大切だと考えています。
次回は、組織サーベイ結果をもとにした個人へのアプローチについてご紹介します。