星加 良司(ほしか りょうじ)氏
東京大学大学院 教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター 教授
2005年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。東京大学先端科学技術研究センター リサーチフェロー、特任助教を経て、2009年東京大学大学院 教育学研究科バリアフリー教育開発研究センター 講師に就任。2022年より現職。障害者を無力化する社会的な諸関係・諸編成に関する研究を行っており、近年の主な研究テーマは、ディスアビリティの社会モデルに基づく社会理論、障害者のシティズンシップと社会的位置、障害平等施策としての合理的配慮、社会的包摂のためのバリアフリー教育など。公益財団法人日本ケアフィット共育機構「IX診断」共同開発責任者。
DE&Iの歴史的背景
近年、企業経営において「DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)」に注目が集まっている。セミナー冒頭では、星加教授はDE&Iの歴史的背景について説明した。
「そもそも、ダイバーシティやインクルージョンという言葉は1960年代から70年代にかけて、特にアメリカの公民権運動の中で使われるようになりました。社会的マイノリティ、つまり社会の中で十分に活躍の機会を与えられてこなかった、もっといえば、分離されたり隔離されたりして社会に参加することが許されてこなかった方々が、平等な、あるいは公正な機会・権利の保障を求めて、さまざまな主張や要求を展開してきたというムーブメントの中で使われてきました」(星加教授)
1990年代に入ると、D&Iという言葉が企業の中で使われるようになったという。つまり、D&Iは多様性を単なる社会正義の問題としてだけでなく、組織運営の戦略的手法として捉え直されるようになったのだ。
「1990年代以降に入ると、アメリカやヨーロッパで“ダイバーシティマネジメント”と呼ばれるマネジメント手法が注目されるようになります。それまでD&Iはマイノリティの権利保障を中核的な理念として展開されてきましたが、それをさらに1歩進めて、組織や集団にとってのメリット、つまりパフォーマンス・生産性向上のための源泉としてD&Iが捉えられるようになってきました。
また、単にダイバーシティマネジメントを行うだけではなく、もともとD&Iの概念に含まれていた『平等性』や『公平性』を確保するというアプローチも取らなければ、組織や集団のパフォーマンス向上につながっていかないということも発見されてきた歴史があります。こうした流れを受け、今日ではダイバーシティとインクルージョンにエクイティという観点を入れた『DE&I』という3本柱がスタンダードになっています」(星加教授)