戦略人事キャンバスで導かれる人事施策——2つの事例
岡安氏は、この戦略人事キャンバスを用いることで、「まずは要点だけでもいいので、経営の観点、現場の観点、組織・人事の観点から、戦略人事施策を可視化していくことがポイント」と語る。
そこで、戦略人事キャンバスを用いて人事戦略を作成した事例を2つ紹介した。
1つ目はある商社の事例。「数十年、基軸事業が安定しているいまのうちに、次の柱となる事業を模索している」という状況だった。最終的に導かれた戦略人事施策の方針は、次期社長を選抜するサクセッションプランの実施だ。この方針はどのような“経営の観点”から来ているのか。
「この会社は既存ビジネスを重視しつつも、新しいビジネスの発掘に注力し、中長期視点で成長基調に乗せていくような戦略をとっています。これを実行する主要キャリアは次期社長や執行役員。そして、その人材要件にはビジョン構築力や発想力が挙がってきた。結果として、これを反映したサクセッションプランの実施が方針となりました」(岡安氏)
さらに、“現場の視点”からは縦割りの事業遂行ゆえに、企業全体を見渡す視野を持ちづらいことや、環境変化の中でキャリアが想像しにくいといった課題が挙がっていた。そこで、“組織・人事の視点”からはこれらの課題を解消するため、組織横断の会議体を用意したり、そこでの議案を取締役へ付議したりといった整備を行った。
これら3つの観点を押さえたサクセッションプランを、コーチング支援を通じて対象者のモチベーションを補完しながら実施したという。

もう1つの事例は、自社開発製品を展開する業界のリーディングカンパニーの営業組織のケースだ。「新たなオンラインの営業組織を立ち上げ、販売チャネルの多様化を試みる」フェーズにおいて、戦略人事キャンバスを活用。「新規事業を担うキャリアパス設計」という戦略人事施策を策定した。
「経営の観点から、新たな販売チャネルの安定化と成功要因の他組織展開を図りたいという戦略想定があった。安定化の鍵となる部長層・課長層を強化するため、戦略を現場に落とし込む実行力や業務構力といった人材要件が要請されました」(岡安氏)
そんな中、現場の視点では既存の営業の成功体験にこだわる社員が多く、一方で若手社員は柔軟性が高いという状況が明らかになった。また、他業界のように新しい営業スタイルを身に付けたいといった社員要望も明らかになった。
そこでキャリアパス設計の施策として、1つ上の権限を付与したり、新たな業務経験を持たせたりする異動ルールの設定や、課長・部長の人材要件を明確にしてキャリア像を示すといった取り組みを行ったという。
