トップがコミットするからブレないコミュニティ運営
高橋:なぜそういった価値のあるコミュニティ運営ができているのでしょうか。運営にあたって目指しているKPIはありますか。
加古:もちろん、長期的にはコミュニティの価値を可視化できるようにと考えていますが、数字として追っているKPIは現在はありません。短期的な数字を追ってしまうと、たとえばイベントの告知などが増えて卒業生は煩わしく感じるかもしれません。つまり、コミュニティ運営において数字を追うことは本質的ではない、この場が暖かく価値ある場所になることが重要だ、という前提をすべてのメンバーが共有しています。
八森:まさに「人的資本経営」の一環にアルムナイコミュニティがあると捉えています。人事としては退職する人も仲間という意識で、ボーダーがあまりないのです。起業する人ならなおさら、「何かあったらいつでも戻ってきて」というふうに応援しながら送り出しています。
高橋:DeNA Galaxyにいる人みんなに、どこにいても活躍してほしいという思いが伝わってきます。
加古:そうですね。運営のベースには、DeNA出身者たちが好きで、がんばっている卒業生を応援したいというピュアな気持ちがあります。そのうえで、会社で運営するにはそれなりの理由が必要なので、企業ブランディングの効果や事業創出への期待もあります。
八森:コミュニティの中では、卒業生が活躍している記事などが、毎日のように共有されるのです。それは社内のメンバーの刺激にもなっています。
加古:もう1つ鍵になっているのは、南場本人が積極的に取り組んでいることです。
コミュニティ運営は難しいもので、外野から「意味あるの?」といわれたりしますよね。でも私たちの場合は人事だけが運営しているコミュニティではありません。むしろ南場自らがコミットして、「ちゃんと続けていこうね」と発信してくれます。だから軸がぶれることなく、価値のある企画にチャレンジできるのかなと思います。
八森:イベントに参加する度、私自身も感動して、参加してよかったなと思うんです。満足度が高い企画を続けて、来た人が「よかった」と思える体験を積み重ねていくことが大事だと思います。

“南場さんのような人”じゃなくてもよい!コミュニティの価値をつくる人物像とは
高橋:他の企業がアルムナイコミュニティをやる場合、南場さんのようにコミットしてくれる経営者がいないことがほとんどだと思います。そういった企業への助言はありますか。
八森:できれば卒業生の中でタレント的な、人脈の真ん中にいる人が必要だと思います。「この人がいる会は面白そうだな」と思わせる、アルムナイコミュニティの価値をつくる人物です。有名人である必要はなくて、社員や卒業生みんなが知っている人、「友達が多い人」みたいなイメージですね。
加古:そうですね。OB/OGの中でも1対1のつながりを多数持っているようなハブになるような人は大切ですし、私自身も個別に1対1で連絡を取ることも重視しています。また、DeNAにはさまざまな個性を持った人がいますが、その中でもコミュニティとしてこの人の話を聞きたいな、面白いな、という方に入っていただくことを大切にしています。
高橋:場のデザインとファシリテーションができる人が重要で、それは必ずしも経営者でなくてもよいのかもしれませんね。
加古:また、仮に経営層があまりアルムナイに関心がなく、ボトムアップで運営していく場合にも、1人のすごく熱意がある人が推進して、仲間が少しずつ増えて「これは価値があるね」という状態になれば、軌道に乗っていくのではないでしょうか。
そのためには、コミュニティ内では昔話だけではなくて、「今の話」と「これからの話」をすることが大事です。卒業生が集まっても、ただ思い出話や愚痴だけを話しているだけだとつまらないじゃないですか。
卒業生が今どんなキャリアを歩んでいて、これからどうなりたいのか。そこでの悩みやチャレンジを共有して、学びを得ることに意味があります。運営する私たちも得るものがあるような、意味のあるコミュニティをつくりたいですね。