対応のロードマップと成功のポイント
2025年10月の施行に向けて、今から段階的に準備を進めることが重要です。ここでは時期を区切り、それぞれの時期で取り組むべきことを解説します。
2025年前半の段階では、方針決定と要件定義が中心となります。まず、経営層を交えて法改正対応の方針決定を行います。ここでは単なるコンプライアンス対応ではなく、人材戦略としての位置付けを明確にすることが重要です。次に、現状分析と課題抽出として、現在の家族情報管理の状況や面談プロセス、勤務形態の多様性への対応状況などを棚卸しし、課題を明確にします。そのうえでシステム要件を定義し、必要な予算を確保します。この段階で経営層の理解と支援を得ておくことが、その後の円滑な推進につながります。
2025年半ばには、システム選定と設計の段階に入ります。自社の要件に合ったシステムを選び、ベンダーと契約します。その後、システム設計とカスタマイズを行い、自社の業務プロセスに合わせた形に調整します。テスト運用を通じて実際の使い勝手や課題を確認し、必要に応じて修正を加えます。同時に、マニュアル作成と研修計画も進め、システム導入後のスムーズな運用に備えます。ここではユーザーとなる現場の声を取り入れながら、使いやすさと効果のバランスを取ることが重要です。
2025年秋には、いよいよ運用開始と体制整備の段階となります。新システムの本格導入を行い、実際の業務でシステムを活用し始めます。管理職・社員向け説明会を通じて、システムの使い方だけでなく、法改正の趣旨や会社としての方針も共有し、理解を促進します。また次回に解説しますが、この施策の実効性を保つためには現場の管理職との目線合わせや制度の周知、社内とのコミュニケーションが重要です。
さらに欠かせないのは、現場を巻き込んで方針を組織全体でオーソライズすることです。トップダウンの方針と現場からのボトムアップの意見を適切に組み合わせます。そして根本的に重要なのは、「雇用関係の法令や政策対応は人材戦略推進の大きなきっかけであり、この機会を活用する」という視点です。この視点の有無により、対応について大きな差ができつつあると感じられます。
「法令対応はルール遵守が重要であり、押さえるべきところは押さえ、過剰に行うと非効率になりそうな点は見抜いて対応しよう」というような視点は、現状の法令政策とは全くズレています。2019年くらいまでの働き方改革の時期、つまり過重労働を是正するためにルールを厳格化していた時期には、この視点で合っている面があったと思います。しかし現状では、人的資本経営の人材戦略の実施機会に正しく位置付けることと、2027年の労働基準法改正までに実施する人材戦略上の中長期計画を立てることが最も重要な視点だと思います。
育児・介護休業法改正は人的資本経営にかなっている
2025年10月の育児・介護休業法改正は、多くの企業にとって対応の負担を感じるかもしれませんが、人的資本経営の観点からは大きな変革の機会でもあります。特にHRテック情報基盤の刷新は、単なる法令対応を超えて、多様な人材が活躍できる組織づくりの基盤となります。
この法改正の本質は「休む制度」から「働き方の多様化」への転換にあります。これは、1人ひとりの社員がライフステージに応じた最適な働き方を選択できる環境を整えることであり、人的資本経営が目指す方向性と合致するものです。
法改正を「ツール」として戦略的に活用し、企業価値向上につなげるためには、経営層・人事・IT部門が連携し、全社的な視点で取り組むことが不可欠です。2025年の法改正対応を通じて、多様な人材が互いの違いを尊重しながら、それぞれの能力を最大限に発揮できる組織づくりを進めていきましょう。それが、人的資本経営の深化と企業の持続的成長につながる道であると確信しています。
次回は2025年10月の育児・介護休業法改正への対応その3として、マネジメント関連の課題を中心にお伝えする予定です。