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日本企業はスキルベース組織を導入すべきか?「日本型スキルベース」のススメ | 第4回

スキルベースと雇用―すでに議論は“ジョブ型の先”へ 日本企業が考えるべき「人事制度の進路」とは

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 本連載では、スキルベースの適用分野として、まずは「人材育成・キャリア開発」、次に「中途採用・新卒採用」が適切だと述べてきた。そして今回は、「雇用」への適用について検討したい。ここで述べる雇用とは、雇用形態・雇用契約をはじめ人事評価・報酬といった「人事の本流」を指す。ここにスキルベースを適用することは、人事制度を全面的に改定することを意味しており、そう簡単な話ではない。また、スキルベース組織は欧米企業による「ジョブ型雇用への反省」から生まれた一面もあるが、日本企業ではメンバーシップ型雇用が主流である。それゆえ、我々は「メンバーシップ型雇用からスキルベース雇用へと移行する必要があるのか?」との問いを冷静に検討する必要がある。

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雇用への応用は少し先かも——人事評価と報酬を考えるときの複雑な論点

 今回はスキルベースと雇用の関係について述べる。ここでいう雇用とは、雇用形態・雇用契約をはじめ人事評価・報酬といった領域のことである。いわゆる、企業人事の本流であり、ここにスキルベース組織を適用することは人事制度を全面的に改定することを意味しており、そう簡単な話ではない。

 まず、報酬には従業員の生活がかかっている。従業員は、現行の報酬体系を前提に住宅ローンや子供の教育費を設計しており、経営者の都合だけでおいそれとは変更できない。従業員は、「来年はたぶん昇給するだろうから、これくらいの出費は大丈夫だろう」と考えて日々生活しているのであり、報酬体系の抜本的な改定は労働組合の了解も必要となる重要事項である。

 次に、評価はさらにナイーブである。それは報酬決定のレバーとなるだけでなく、昇進(出世)と密接に連動しているからである。人々の働く意欲は報酬だけで決まるのではなく、人によっては昇進のほうが重要であり、欧米ではそれを不満に殺人さえ起こる。

 評価・報酬を決めるときに重要なのは公平感や納得感であるが、スキルが高いだけで評価や報酬が上がることに多くの従業員から理解が得られるのか、現時点では疑問が残る。「それよりもコンピテンシー評価(行動特性の発揮度が評価される)のほうが公平感・納得感が高いのではないか」といった意見や、「現実問題としてスキルをどのように客観的に測定するのか」といった課題など、論じるテーマは枚挙に暇がないほどである。

 結果、この領域へのスキルベース組織の導入(スキルを起点とした評価・報酬の決定)は、まだ控えたほうがよいと筆者は考える。少なくとも日本人の職業観からは少し遠い制度であり、まだ機は熟していないと考えられる。

 しかし、この連載で幾度も述べているとおり、スキルベースの考え方は今後間違いなく世界的な潮流となるのであり、日本企業もそれを避けては通れない。それを踏まえ、次に雇用とスキルベースの関係について論じていきたい。

スキルベースと相性が悪い「総合職」、その理由とは

 米国では、1970年代ごろからジョブ型雇用が主流となった。ジョブに人材を当てはめていくという考え方のもと、職務記述書を作成し、採用・配置を行ってきた。しかし昨今、職種の専門化・細分化やエンジニア職の大量採用といった時代背景により、ジョブという大きな単位よりも詳細なスキルという単位で仕事を管理したり、人材の適正配置をしたりといった必要性が出てきた。

 また、近年ではリスキリングのために「成長分野へ人材を再配置したい」という企業ニーズが生まれたが、ジョブ型では人材の流動性が低いため、スキルという概念を利用して高い流動性を担保したいという企業側の思惑もある。つまり、欧米企業における「ジョブ型はもう時代に合わない」との考えが、スキルベース組織を生み出したといえる。

 一方、日本企業では、戦後一貫してメンバーシップ型の雇用形態を踏襲しており、総合職に代表されるゼネラリストを育成してきた。多くの日本企業では、社長への階段は総合職から登るのが通例(製造業の技術職を除く)であり、総合職は日本企業における「王道」の職種といえるだろう。それゆえ、この職種とスキルベースとの相性を考えることは、日本企業にとって重要である。

 総合職は、文字通りあらゆる仕事をこなすオールラウンダーの人材であり、人事異動に関しても、「どこへ異動辞令を受けてもそれに従う」ことが約束された職種である。筆者も会社員時代は総合職で、「サンパウロ支店(ブラジル)への異動を命ず」という驚愕の辞令を受けたこともあるが、もちろんその指示に従った。それが嫌なら、会社に辞表を提出するしか道はない。総合職とは、そういう職種である。

 このように総合職は社内での流動性が非常に高い職種である。つまり、人材流動性の観点では、日本企業へスキルベース組織を導入する必要性はないといえる。

 また、1つのジョブを複数のスキルに分解して、スキルごとに専門の人材を充てていくという概念も、日本企業の総合職の場合には必要ない。総合職とは「あらゆることを行う職種」だからだ。つまり、ここでもスキルベース組織のニーズがない。

 日々仕事をしていると、「これは誰の担当だろう?」という業務が日常的に発生する。総合職はそのような仕事を自ら拾うように育成され、実際そのような社員は高い評価を受ける。同僚からも、「彼は誰も拾わない仕事を自ら引き受けてくれて、本当に助かる」と高い信頼を得ることになる。つまり、総合職は日本人が考える「彼はできる人だ」という人材像とマッチしているのだ。

 以上のとおり、総合職はスキルベースの概念とは明らかに相性が悪い。それゆえ、この職種へのスキルベース組織の導入は慎重に進めるべきであろう。これが、筆者が出した結論である。ただし、これはあくまでも総合職の話であり、デジタル・IT分野といった専門職であれば活用できる可能性が高いことは強調しておきたい。

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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