生成AIで就業規則の目的条文を見直してみよう
自社の就業規則の冒頭にある目的条文を、じっくり読み返したことがあるだろうか。
実は、就業規則の目的条文は、法律で定められた必須条項ではない。だが、目的条文として就業規則の最初に置くことで、その企業がどんな価値観を大切にして、従業員にどのような姿勢を求めるのか、企業の想いを端的に示す役割を果たす。いわば“道標”のようなものなのだ。
しかし、多くの企業では市販のテンプレートや厚労省が公開しているモデル就業規則をそのまま転用している。この現状を問題視した岩﨑氏は、どこも似たり寄ったりになってしまっている就業規則の目的条文を、生成AIの力で100社100様につくり分けられないかと考えた。
岩﨑 仁弥(いわさき きみや)氏
株式会社リーガル・ステーション 代表取締役 特定社会保険労務士・行政書士
年間セミナー100回以上、延べ3万人以上の受講生、株式会社リーガル・ステーション代表取締役、NAC社会保険労務士事務所主席コンサルタント、特定社会保険労務士、行政書士、ISMSコンサルタント、厚生労働省「労働契約等に関するルール定着事業検討会」「就業環境整備・改善支援事業検討会」等歴任。3号業務を志向する社労士のためのオンラインサロン「3アカデミー」を主宰するほか、ISMSコンサルタントの知識を活かし中小企業でもすぐに導入できる「スモールDX」の推進。ChatGPT等の生成AIの業務活用の指導、ジョブ型時代にぴったり「JOBルーブリック®評価制度」、「社内諸規程整備」などの企業実務でも実績を上げている。
そのつくり方は次のとおりである。まず50個のキーワードが並んだリストを渡し、その中から自社が大切にしたいものを5~8つ選んでもらう。
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たとえば、あるボイラーメーカーでは、「労働条件の明確化」「コンプライアンスの向上」「品質マネジメントの徹底」といったキーワードが挙げられた。それを生成AIに渡し、次のプロンプトを記載する。
目的条文の候補を生成するプロンプト
- ペルソナの設定
- あなたは、組織と従業員の持続的な発展を専門とする特定社会保険労務士として回答してください。弁護士資格と産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持ち、大手企業の人事部での勤務経験を経て、現在は中小企業の労務顧問として活動しています。
- 労働法令の実務的解釈や就業規則の作成・改定、労使紛争の解決に精通しているだけでなく、メンタルヘルスケアや職場復帰支援、ハラスメント対策にも深い知見を持っています。産業医との連携経験も豊富で、EAP(従業員支援プログラム)の導入・運用支援の実績も多数あります。特に、法令遵守と従業員のウェルビーイングの両立を重視し、心理的安全性やワークライフバランス、多様な働き方を支援する制度設計を得意としています。組織開発の視点から、従業員エンゲージメントの向上や持続可能な組織づくりについても、実践的な助言が可能です。
- 働き方改革の推進やテレワーク制度の設計、キャリア開発支援など、現代の労働環境に対応した人事制度の構築においても、豊富な経験と専門知識を活かした支援を提供できます。常に予防的アプローチを重視し、従業員の成長と組織の発展の両立を目指した制度設計を心がけています。
- 指示
- 日本の就業規則の特徴を踏まえた、就業規則の目的条文を作成してください。
- 目的条文には、次のkeywordを付け加えて、よりその会社にあった、オリジナルの目的条文にしてください。目的条文は一文で、250文字程度でお願いします。
- 規定は第1案から第3案までの3案を作成してください。
- 作成に当たって留意した点をレポートしてください。
- 第1案から第3案までの違いをレポートしてください。
- keyword
- 労働条件の明確化、コンプライアンスの向上、品質マネジメントの徹底、危機管理体制の構築、キャリア形成支援、公正な評価制度、効率的な業務遂行と時間管理の徹底、道と術の追求
- 出力形式
- 【第1案】…、【第2案】…、【第3案】…
- 作成にあたって留意した点
- 第1案~第3案の違い
- Artifactを用いる
このプロンプトを使えば、キーワードを差し替えるだけで、あっという間に100社100様の目的条文が完成する。このプロンプトのミソは、ただ単に指示を出してキーワードを指定するだけでなく、「作成にあたって留意した点」の説明を求めているところである。これにより、生成AIは自身の思考プロセスを明示してくるため、ハルシネーションが発生していないかどうかを自己検証させることができる。また、最初に詳細なペルソナ設定をしておくことも、ハルシネーションの防止に効果的だという。
「『生成AIは使い物にならない』という声をよく耳にするが、それはプロンプトのつくり方がマズいだけ。社労士のプロフェッショナルであり就業規則の専門家だと最初に生成AIに思い込ませることが大事」と岩﨑氏は説く。
ちなみに、岩﨑氏が使用する生成AIは米国の生成AIスタートアップAnthoropic社が開発した「Claude(クロード)」だ。ChatGPTとは異なり、文字数に厳格である点が使いやすいという。
心配無用!生成AIが広まっても、社労士の仕事はなくならない
「『こんなプロンプトを公開してしまったら、社労士の仕事がなくなってしまうのではないか』と心配されることがあるが、まったくもって心配無用。生成AIが作成した複数パターンの目的条文の中からどれにするのか、社長や人事と綿密に対話をしながら、1つに絞り込んでいく。これは私たち社労士ならではの仕事だからだ」と語る岩﨑氏。完成した目的条文と企業プロフィールを再び生成AIに渡し、次のプロンプトを書く。
就業規則の前文を生成するプロンプト
- ペルソナ
- 先ほどのプロンプトと同じ
- 指示
- 次の目的条文と企業プロフィールに相応しい{就業規則の前文}を1000文字で作成してください。
- 目的条文
- この就業規則は、当社が目指す道と術の追求を実現するため、労働条件の明確化によりコンプライアンスの向上と品質マネジメントの徹底を図り、危機管理体制の構築と効率的な業務遂行及び時間管理の徹底により組織の基盤を強化し、キャリア形成支援と公正な評価制度を通じて従業員と企業の共栄を実現することを目的とする。
- 前文には
- 労働契約法第3条
- 労働契約法第6条
の理念を反映してください。 - 労働契約法第3条、第6条はWEB検索で必ず内容を確認してください。
- 何故この就業規則が重要なのかという経営者の想いを盛り込んでください。
- 就業規則に盛り込んだキーワードへの想いを反映してください。
- 文中に法律名の引用など難しい法律用語は交えず分かりやすい印象を与えてください。
- 最後にこの前文が
- どのように目的条文と繋がるのか
- 労働契約法の理念とどのように関連付くのかなど
作成に当たって留意した点をレポートしてください。 - Artifactを用いてください。
そうすれば、就業規則の前文のできあがりだ。
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