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人事労務事件簿 | #62

労働時間の管理不備で、労働者の主張どおりの始業・終業時刻と判断(大阪地裁 令和5年6月21日)

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3. 要点解説

(1)割増賃金について

 月給制の割増賃金は、以下のとおり計算されます。

月給 ÷ 1年間における1ヵ月平均所定労働時間 × 割増賃金率 × 時間外・休日・深夜労働時間数

 そして、割増賃金の計算上、月給の中には、以下の内容は原則として算入しないこととされています(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 今回は、手当として、セリ人手当、皆勤手当、早出手当および所定時間外賃金が支給されていました。

 セリ人手当、皆勤手当は上記の除外賃金に該当せず、早出手当および所定時間外賃金は固定残業手当を意識して支給していたと推測されますが、支給条件が明確でなく、明確区分性および対価性があるとは認められないとして、割増賃金算入の対象とされました。

 なお、1年間における1ヵ月平均所定労働時間は、基本的には「(365 - 年間休日数)÷ 12 × 1日の所定労働時間」で計算されます。

 裁判では、就業規則の作成・周知があいまいな点もあり、1年間における1ヵ月平均所定労働時間については、週40時間の法定労働時間を前提にして算定し、173.80時間としました。

(2)労働時間管理について

 労働時間を適切に管理しなければ、当然のことではありますが、時間外労働時間数等が把握できません。その結果、割増賃金不払いにつながります。

 厚生労働省による「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)では、以下のとおり定めています。

<労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置>

(1)始業・終業時刻の確認及び記録

 使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。

(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。

  • 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

 上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。

  • 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
  • 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
  • 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
  • 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。 その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
  • 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
     また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
     さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

 以上のとおり、自己申告は例外的に認められる場合はありますが、基本的にはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められます。

 今回は、Y社において始業時間および終業時間の管理を目的とするタイムカード等が全く採用されておらず、管理が不適切でした。

 この結果、Xらの主張する始業時刻および終業時刻については、基本的には、おおよその記憶に基づく概括的な主張としながらも、始業時刻および終業時刻については、Xらの主張どおり認めるのが相当であると判断しました。

 その結果、割増賃金の不払いが認められました。

次のページ
4. 訴訟になる前に取っておくべきだった対応(予防策)

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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