人事側のさらなる参画・成長が今後のカギ
——データ活用の審議を1年間行ってきてどう感じたか。
北野 人事側としては、効果が分かりやすく数値で表れたわけではありません。ただ、データ活用は属人化していた面があったところ、こういった仕組みができたことにより、組織としてナレッジの蓄積やデータ活用方針の統一ができたことは大きいと感じます。過去の審議内容がドキュメントとして残るようになったので、現在のメンバーが異動などで離れたとしても、施策ごとでデータ活用への対応内容がばらつくことはだいぶ減った印象があります。
また今回は、コンプライアンスの観点で確認を求められる要件を、過去のデータ活用事例から取り出して申請フォーマットに盛り込んだこともあり、データ活用の観点からリスクがある案件や検討漏れがある案件はほとんど挙がってきませんでした。
渡邉 審議するデータマネジャーは、テクノロジー側のメンバーだけでなく人事のメンバーも混ぜて構成しました。これにより、施策の背景・目的や、労働に関する法律上の留意点など、テクノロジー側からは出てこない観点を補ってもらえました。これまではそういった観点が漏れたまま社内のコンプライアンス部門に審査を依頼していたため、指摘を受けて再検討するといった時間的なロスも正直経験していました。審議会を運用してからは、そういった時間的なロスが発生した案件はほとんどなかったように感じます。
ただ、実現性や計画性、規約関連の審議項目は判断しやすかった一方、人事戦略と関連する項目は一部判断が難しかったです。たとえば、人事戦略で明示的に書かれている内容どおりの施策は問題ないのですが、システムによる工数削減が目的の施策となると、現場としてのニーズは理解できるけれども戦略と強く結び付いていなかったりしました。そのため、定性的な項目は今後審議する内容を再整備する必要性を感じました。
長谷川 あと、今回初めて審議フローを構築したのですが、どの部分を人事のメンバーに担ってもらうかのあんばいが難しかったです。当初はデータ活用のスキル開発プログラムを受講した人事に、データ基盤のどのテーブルを使いたいかという要件定義も担ってもらうことにしていたのですが、いざ進めてみると、人事だけでは使いたいテーブルの判別が難しいことが分かったため、データスチュワードが途中からサポートに入るようにしました。今年からはこの振り返りを活かして役割の再定義を行いましたが、実際のところ、データのアクセス範囲や個々人のスキルや経験によって対応すべき範囲に差が出てくるため、今後も運用しながら役割や対応内容に関して修正をかけていくことになると思います。
——今後はどのような取り組みをしていきたいか。
北野 引き続き、人事データ活用の企画事例が多く生み出されるようにしていきたいと思っています。今回整備した審議フローも、企画に対して抑止・制御をするのではなく、やりたいことをどうしたら安全に実現できるかをいっしょに考えられる仕組みにしていますし、事務局メンバーもその姿勢で企画に向き合っています。大小さまざまな企画事例を多く生み出していくことで、組織的にもナレッジをためていけたらと考えています。
渡邉 これまでの取り組みを通じて、データ活用を推進するには、それを支えるデータマネジメントの仕組みが不可欠だと改めて実感しています。データ活用の要求は常に変化し、それに伴いマネジメントのあり方も変わっていきます。このバランスをどう取るかが成功の鍵だと思っています。今後は、生成AIをはじめとする最新技術を活用し、データマネジメントプロセスを最適化していきたいと考えています。人手では限界があったメタデータ管理や品質チェックも自動化することで、より安全かつスピーディーな人事データ活用を支援し、組織全体の成長に貢献したいです。
長谷川 審議フローは一定確立してきたのですが、前段階のデータスチュワードの役割を担える人材がまだ少ないので、これを担える人を増やしていきたいと考えています。現在のデータスチュワードはほとんどがテクノロジーの背景を持つメンバーになってしまっていますが、人事側でもデータ活用案件をいっしょに進める中で知見を持つ人材が増えていくので、そういった人にもデータスチュワードを担ってもらえるように、まずはデータスチュワードの役割を明確にし、体系化するところから着手していければと思います。
