社員がキャリア観を持てる機会づくりとおすすめの「問い」
しかし、制度を整えるだけでは、社員のキャリア意識は変わりません。人事や職場の上司が寄り添い、社員に対する問いかけを通じて、社員が「自分のキャリア観」を見つける支援を行うことも必要です。たとえば、次のような方法があります。
社員が自分のキャリア観を見つけられる機会を提供する
- 内省の時間を設ける
- ジャーナリング(考えや気持ちを紙に書き出すこと)や研修を通じて、自分を振り返る機会を提供します。
- 対話の場を用意する
- 人事や上司、同僚など他者と語ることで、自分の考えを整理し、新たな視点を得られます。
キャリア観を見つけるための問いかけ方
上記のような機会では、Doing(何をするか)ではなく、Being(自分自身がどうありたいか)に焦点を当てる問いかけを行うとよいでしょう。次のような問いかけを繰り返すことで、心の奥にある“自身のありたい姿”に社員自ら気づくことができます。
- 入社時に抱いていた思いは何か
- どんなときに「自分らしい」と感じるか
- 憧れる先輩や上司のどこに惹かれるか
- 10年後に実現したい理想の状態は何か
- リスクを取れるなら挑戦したいことは何か
- 過去の経験で自分を成長させたものは何か
- 理想のワークライフバランスとは何か
- 自分の役割以上に周囲に与えたい影響は何か
- 後悔しない選択とは何か
人事の限界を踏まえ、重要な役割を果たす
ただし、人事にも限界があります。社員から挙げられる異動や報酬などの要望は、担当者の権限だけで解決できるものではありません。その場合でも「聴くこと自体に意味がある」と理解することが大切です。社員は必ずしも即時の解決を求めているのではなく、「受け止めてもらえた」という体験自体が信頼につながります。
人事にできるのは、声を集めて経営に届けること、実現可能な部分と難しい部分を分けて説明すること、すぐには動けない場合も見通しを共有することです。そうした積み重ねによって、人事は「万能な解決者」ではなくとも「信頼できる経営と社員の架け橋」として存在感を発揮できます。
そのときの実施の工夫ポイントは次のとおりです。
- 場の設計:安心して語れる雰囲気をつくり、否定せずに聴く
- 時間の確保:評価面談と分けて、キャリア対話の時間を保障する
- 継続性:一度で終わらせず、半年ごとなど定期的に振り返る
- 支援体制:メンターやコーチを育成し、社員のキャリア実現を制度的に支える
人事は、制度設計者であると同時に、社員の声を聴き、経営とつなぐ案内人です。人事自身は万能ではありません。しかし、聴くこと・伝えること・橋渡しすることこそが、人事が果たすべき最大の役割です。キャリアに夢を描きにくい時代だからこそ、その役割はいっそう大きな意味を持っています。