人事が「社員」と「会社」に対してすべきこと
社員がキャリアに夢を持てない背景は以上のとおりですが、では一体どういった状態であれば、社員はキャリアに夢が持てるようになるのでしょうか。
重要なのは、社員と会社の双方が「キャリア観」を明確にし、それを現実の制度や評価と結び付けて社員に提示することです。そうすることでキャリアを「会社が社員を選ぶもの」から「社員が自ら選び取るもの」へと変えていくことができるのです。
そして、そのような変化の先には、次のような効果が期待できます。
- 多様な志向を持つ社員が、自分らしいキャリアを歩める
- ミスマッチが減り、定着率やエンゲージメントが高まる
- 組織全体が柔軟性とイノベーション力を高められる
ここでいうキャリア観とは、単に「どんな役職に就きたいか」「どんな部署で働きたいか」といった希望のことではありません。自分が仕事や人生を通じて「どうありたいか」「何を大切にしたいか」を示す価値観や人生の方向性のことです。目先のキャリアプランよりも根源的なもので、その人のモチベーションの源泉になります。
社員が再びキャリアに夢が持てるようにするために人事に期待されることは、このキャリア観を明確にするための支援を行うことです。たとえば、次のような項目について「社員」と「会社」の両面に働きかけることが有効です。
社員に向けて
- 1キャリア自律の環境づくり
- キャリア面談や1on1を単なる評価の場にせず、社員が将来を考える時間として制度化します。目標設定に自分がどのようなキャリアを描きたいかを社員自身が考える項目として「キャリア観」を取り入れて、期末に振り返ることも有効です。
- 2心理的安全性の確保
- 「挑戦しても大丈夫」と感じられる雰囲気がなければ、社員は夢を語りません。心理的安全性とは「否定されない安心感」のことです。失敗を学びとして扱う文化を育て、異動や新しいチャレンジを自由に提案できる仕組みを整えましょう。
- 3学び直しとスキル開発の支援
- リスキリングやアップスキル(既存スキルの高度化)の機会を用意し、それをキャリアパスの一部に位置付けます。メンターやコーチを配置し、社員の自己理解と成長を後押しする仕組みも有効です。
会社に向けて
- 1MVVの明確化と浸透
- MVVとは「Mission」「Vision」「Value」の略です。会社がどこを目指すのか、その中で社員に何を期待するのかを明示し、評価制度や組織文化と結び付けることが重要です。
- 2多様なキャリアパスの可視化
- 管理職だけでなく、専門性を高める道や横断的なプロジェクトに関わる道を具体的に示します。実際に歩んだ社員の事例を共有することで、社員は「自分にもできる」とイメージしやすくなります。
- 3評価・報酬制度の柔軟性
- キャリアの志向は人によって異なります。出世を望む社員だけでなく、スペシャリストとして貢献したい人やワークライフバランスを重視したい人も正しく評価される仕組みが必要です。
- 4人事制度・組織構造の見直し
- 縦割りを越えた経験を積めるよう、兼務や横断的なプロジェクト参画を制度化することも有効です。