NTTドコモグループが推進する人的資本経営の全体像
松岡佐知(以下、松岡) 最初に、NTTドコモグループの人的資本経営の全体像について教えてください。
郡康之氏(以下、郡氏) 2025年7月から、NTTコミュニケーションズは「NTTドコモビジネス」と名前を変え、新ドコモグループが5万1698名の新体制で運営を開始しました。併せてグループビジョンも一新し、テクノロジーと人間力というキーワードが明記され、人事の取り組みもテクノロジー中心で進める機運が高まっています。
事業構造として、広く知られているコンシューマー通信事業のみならず、金融、エンタメ、電気など幅広い事業を手掛けているため、多様なスキル・経験を持った人材を育成する必要があるのが特徴です。
松岡 それでは、NTTドコモグループの人的資本経営の基本的な考え方はどのようなものでしょうか。
郡氏 ドコモの人的資本経営は、次図の左下「人的資本経営」の「2個人の挑戦」にあるように、個人が事業の成長につながる場所で挑戦して活躍する。これが「1事業の挑戦」につながってくる。加えてそれを支える「3風土・文化」を醸成していき、最終的に持続的な成長サイクルにしていく。このような基本方針を掲げています。
松岡 具体的には、人事プロセスをどのように設計しておられますか。
郡氏 人事プロセスは「スキルベース人材マネジメント」と「データ/AI活用」の2階建てで構成しています。
上の階層であるスキルベース人材マネジメントは、スキル管理を起点として、事業計画に必要なTo‑Be人員と現状(As‑Is)のギャップを可視化し、そのギャップを採用・育成・リスキリング・配置転換などで解消していく、という3つのステップで構成しています。
スキル管理においては、事業成長を実現するために、人材の質をどういった基準で見るかを整理しています。それにより、個人の成長を事業成長につなげていこう、という考え方をしています。
スキル管理の第1層は専門分野、第2層がタレントプロファイル(職種を大項目・小項目で整理)、第3層がコアスキルツリーです。コアスキルツリーは約130の職種ごとにひも付くスキルマップを指し、このスキルマップを生成AIで作成・更新するプロジェクトを行いました。
郡 康之(こおり やすゆき)氏
株式会社NTTドコモ 総務人事部 人事戦略担当部⾧
株式会社NTTドコモに新卒で入社。人事運用、人事制度、給与制度など本社、地域支社の各人事セクションを経験し、2025年7月より総務人事部 人事戦略担当部長に着任。AIファーストの人事マネジメントに向けたHRシステム改革をリードし、人的資本経営の推進に取り組む。
松岡 人事領域における生成AI活用は、まずどこから、どのような背景で始められたのでしょうか。
郡氏 3年くらい前から、人力で専門分野とタレントプロファイルを作成してきたのですが、その中で、「この130の職種の人材は、どんなスキルをどのようなレベルで持っているんだろう」という課題が出てきました。そこで、生成AIを活用して各職種にひも付くスキルマップを構築しよう、というプロジェクトが立ち上がり、野村総合研究所といっしょに実施しました。
具体的には、生成AIを使って、社内の職務定義書(ジョブディスクリプション)からスキルを洗い出し、スキル群と職種をひも付けました。生成AIによる素案作成の後には、HRBPなどがチェックします。この人間と生成AIのハイブリッド運用により作業負荷を大幅に下げ、継続的なメンテナンス体制を実現しようとしているところです。
スキル管理の重要性は、AIによる配置マッチングにおいて「ゴミを入れたらゴミが出る」問題を回避することにあります。会社にとって優秀な人材の判断基準を正しく整理することが非常に重要であり、このプロセスは自社の優秀さの定義を全社で考える組織哲学的な意味もあると感じています。

