「多能化」が求められるAI時代のエンジニア、組織の見直しも必要
野澤友宏氏(以下、野澤) 花田さんが人事部門長に就任された2017年ごろ、どのような人事上の課題がありましたか。
花田琢也氏(以下、花田) 当時は既存事業を拡大していく必要がある一方で、ビジネス環境の変化に対応するため、事業の多角化に向けた変革への挑戦を進めなければならない状況でした。
加えて、EPC(設計・調達・建設)ビジネス、特に海外のエネルギー系プラントにおいて赤字プロジェクトがいくつか発生していました。本来やるべきことが十分にできていないという危機感もありました。まさに、エンジニアリングという仕事、そしてエンジニア自身の役割を改めて問い直すタイミングだったと思います。
花田 琢也(はなだ たくや)氏
日揮ホールディングス株式会社 専務執行役員 CHRO(最高人事責任者)
1982年日揮株式会社(現日揮ホールディングス)に入社。石油・ガス分野の海外プラント建設プロジェクトや事業開発分野に従事。1995年トヨタ自動車に出向し、海外自動車工場建設プロジェクトに参画。2002年にはNTTグループとトライアンフ21を設立しCEOに就任。その後、日揮のアルジェリア現地法人CEO、事業開発本部長、人財組織開発部長を経て、2018年にCDOに就任。2019年に持株会社化に伴い日揮ホールディングス常務執行役員CDOに就任。2021年には日揮グローバル エンジニアリングソリューションズセンタープレジデントを務め、2022年4月日揮ホールディングス専務執行役員CHRO兼CDOを務める。2023年4月から現職。
野澤 2021年には海外でのEPC事業を担う日揮グローバル エンジニアリングソリューションセンターのプレジデントにも就任されました。これはどのような背景があったのでしょうか。
花田 今後、AIやITが進化していくと、エンジニアリングやエンジニアの価値は確実に変わっていきます。将来を見据えて、エンジニアが変革に挑戦していくマインドセットを高めていこうとの経営トップの判断によるものでした。実際、その後AI技術は急速に活用されるようになりました。
野澤 まさに先見の明だったのではないでしょうか。
花田 いや、当時はそこまで明確に見えていたわけではありません。ただ1つ感じていたのは、エンジニアリング業務の中には確実にコモディティ化する部分があるということです。その領域がAIに置き換わるとすれば、エンジニアは別の価値軸を持たなければその真価を発揮できません。そう考えると、1つの専門軸だけでは不十分で、複数の軸を持つ必要があります。
世の中でも指摘されているとおり、エンジニアの多能化は避けて通れないテーマだと考えました。そうした多能化人材を育成するためには、組織構造そのものも見直す必要があります。そこで当時の部長層に集まってもらい、あるべき組織像からバックキャストしながら、どのように部門の統廃合を進めるべきかを何度も議論しました。
野澤 一般的には専門性を深める方向に進みがちですが、その専門性が時代とミスマッチを起こすと活躍の場が失われ、リスキリングが必要になります。御社は、時代に合った専門性の広げ方や軸のつくり方に、かなり早い段階から取り組まれていたのですね。多能化について、もう少し具体的に教えてください。
野澤 友宏(のざわ ともひろ)氏
ニューホライズンコレクティブ合同会社 代表
1999年株式会社電通入社。コピーライター・CMプランナー・クリエーティブディレクターとして、100社以上の企業を担当。2018年よりHuman Resource Management Directorとして電通の人事施策・後進育成にも広く貢献。2020年末、電通を退社。2021年1月より「ニューホライズンコレクティブ合同会社」の共同代表として、学び(アカデミー)、仲間(コミュニティ)、そしてそれらを生かした新たな出番(ビジネス)を生み出す「ライフシフトプラットフォーム」の運営を開始。人生100年時代の新しい働き方・生き方を提案している。
花田 多能化とは一言では語れず、そこにはいくつもの軸があります。たとえば次のようなものです。
- 複数の専門技術を持つ
- 要素技術とプロジェクト遂行能力を併せ持つ
- EPC(設計・調達・建設)の全フェーズの遂行能力を持つ
- 異なる業界のEPCビジネスに柔軟に対応できる
- EPC遂行に合わせて事業開発や運営の視点を持つ
ただし、世代ごとにアプローチを変えなければ、せっかくの専門性を逆に薄めてしまう可能性があります。そのため当社グループ、特にEPC事業会社では、ベテランに急激な変化は求めていません。頭では理解していても、すぐに行動を変えるのは簡単ではありませんし、生産性が落ちてしまう可能性もあるからです。一方で、若手には早期から多能化を促す「Baysix制度」を2022年度から導入しました。
野澤 多能化を進めながら、ベテランにも活躍してもらう。そのバランスには多くの企業が悩んでいます。多能化によって長く活躍できる環境をつくることは重要ですが、同時にベテランにも力を発揮してもらう必要がありますからね。

