AIで均質化する候補者情報 企業が直面するミスマッチ拡大のリスク
——生成AIの登場は、企業の採用にも大きな影響をもたらしました。特に日本企業の採用において、どのような課題が生まれているのでしょうか。
1つは、候補者の応募書類から能力を見極めることが難しくなったことが挙げられます。
生成AIの活用により、職務経歴書などの書類レベルが格段に向上しました。従来は、候補者自身が過去の経験を振り返り、構造化して表現する必要がありましたが、今では生成AIを使うことですぐに質の高い職務経歴書が完成します。その結果、書類から読み取れていた認知能力や文章作成能力の差が見えにくくなっているのです。
須藤 芳紀(すどう よしのり)氏
back check株式会社 代表取締役社長
大学卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。営業マネージャー、ゼネラルマネージャーを経て、2012年からインテリジェンスHITO総合研究所(現パーソル総合研究所)執行役員に就任。その後、アマゾンジャパンでマーケットプレイス事業企画部部長とシニアプロダクトマネージャーを歴任。2018年からはグーグルで広告営業本部の統括部長を担う。2021年、17LIVEに執行役員として入社し、グローバルマーケットの経営とプロダクト開発を牽引。2023年1月、ROXXに入社しback check事業部COO、6月より同CEOに就任。2025年9月、カーブアウトに伴いback check株式会社の代表取締役に就任。
もう1つは、面接の事前準備が生成AIによって容易になったことです。従来は候補者が自力で作成していた想定問答集なども、AIに頼ることで誰もが一定レベルの準備を行えてしまいます。これにより、候補者間の差がつきにくくなり、採用担当者から見て見極めが難しくなっています。
書類や面接で差分を見分けにくい状況は、面接官の印象やバイアスに基づいた評価を助長する可能性があります。その結果、入社後のミスマッチを引き起こしかねません。
これは生成AIが登場する前から存在する課題でした。しかし、課題が解決されないまま生成AIによって多くの候補者が一定レベルの準備をするようになったことで、見極めの難易度がさらに上がっています。
——なるほど、印象やバイアスに依存した採用が増加することで、ミスマッチも増えそうです。一方で、生成AIを活用することで、企業側が採用活動を改善できる可能性はないのでしょうか。
面接の構造化を進め、採用の質を向上できる可能性があります。構造化面接は人力でやると骨の折れる作業ですが、生成AIの力を借りることで以前より容易になりました。
また、データ分析も比較的かんたんにできるようになりました。たとえば、「このポジションにはどんな能力が必要か」といった、採用の基準になる要素を人事データで分析して明らかにすることで、ミスマッチを減らせるはずです。
ただし、やはり書類・面接だけでは見極められない能力もあり、それが多くの企業のミスマッチの原因になります。そのため、書類や面接だけに限らない採用判断の手立てが必要になってくるでしょう。
ミスマッチを左右する「面接では見極められないスキル」
——ミスマッチの原因となっている、面接で見極められない能力とは何でしょうか。
ミスマッチとは、面接で「この人は優秀だ」「これができる」と感じて採用したものの、入社後に期待した能力を発揮できないというギャップです。
なぜそういったギャップが生まれるのか。それは、そもそも面接という対話の場だけでは、職務を遂行するために必要な能力・スキルをすべて見極めることが難しいためです。
たとえば、業務を期日までに完遂する能力や、問題発生時に上司へタイムリーに相談する能力などは、面接で確認のしようがありません。コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力はある程度測れますが、極度に困った状況で柔軟に乗り越える力(レジリエンス)なども、長年一緒に働いた人でないと分からない能力です。
こうした能力は、リファレンスチェックで過去一緒に働いた人物に尋ねることで初めて把握できるのです。


