中途採用の社員が辞めたワケ
以前勤めていた会社で、中途採用の若手社員がなかなか根付かないことが問題となりました。そこで、退職していく方々に協力していただいて「なぜ辞めるのか」を伺ったことがあります。重い口を開いて返って来た答えで多かったのが、「この会社はどこをどうやって押せば動くのかわからない」というものでした。「部長に話をして『OK』と言われたので、やってしまっていいのかと思ったら、『あいつにも話を聞いてみて』と言われたりする」と、指揮命令系統や意思決定ルートがわからず途方に暮れてしまい、誰にも相談することもできず、苦しんだ末、辞める決意をしたというわけです。
転職した先で味わう「たこツボ」
それを聞いて、とても申し訳ない気持ちになったことを覚えています。私はその会社には新卒で入っていたせいかよく分からなかったのですが、私にはオープンなコミュニケーションが繰り広げられている職場が、彼らにとってはとてもクローズドな世界で、何がどうなっているのかわからない五里霧中の状況、つまり「たこツボ」のような世界に見えていたということです。
もちろん、物理的に閉ざされた部屋に閉じ込められているわけでも、シーンとした無音の中にいるわけでもありません。傍目にはふつうに働いているように見えます。しかし、中途社員には「ここには見えない何かがある」「自分だけ何も知らされていないルールやシステムがある」と思えているのです。
正体は「インフォーマルネットワーク」
その「見えない何か」とは何か。それは人と人のインフォーマル(非公式)なつながり、「インフォーマルネットワーク」でした。上司と部下などのフォーマルな組織上のつながりではない、インフォーマルなものなので、もちろん組織図などには載りません。
最も典型的なものが「新卒採用の同期社員」です。内定者期間が長い分だけ、新卒社員の同期は自然と仲良くなることが多く、それがインフォーマルなつながりになります。また、「過去に一緒の部署で働いた同僚」や「リファラル(紹介)による採用で入ってきた学生時代の先輩・後輩」なども、インフォーマルネットワークの素地となります。特に後者などが発達しすぎると「学閥」などと呼ばれたりします。
見えない「ガラスの天井」に押し込められる
このインフォーマルネットワークが元凶だったのです。新卒プロパー社員などは当然のように、自然に、無意識に、組織の中でのインフォーマルネットワークを持っています。そして、そのインフォーマルネットワークを使って、効率的に裏ルートから情報を収集したり、真の意思決定者を発見して根回しをしたりします。そうして組織をしなやかに動かしていくわけです。ところが、新卒プロパー社員には便利なインフォーマルネットワークも、それを持たない中途採用社員からすると見えない壁、いわゆる、「ガラスの天井」(Glass ceiling:性別や人種などの非本質的なことによって組織内で能力や成果が正当に評価されず、昇進や昇格ができないという見えない障壁)となるのです。