産業医の活躍を支援し、健康リスクに迅速に対応可能にする
――ICTのシステムによって健康管理を行う取り組みはこれまでになかったのでしょうか。
大手企業の業務管理パッケージなどにオプションとして用意されており、実際に大手企業を中心にカスタマイズされ、今も使用されています。しかし、多くがオンプレミスで高額であることから、ほとんどの企業にとっては高嶺の花だったのです。人事をコストセンターと見る向きもあり、健康管理などの業務に大きなコストをかけられないというのが正直なところでしょう。
そこで、必要十分な業務を標準化し、ほぼカスタマイズすることなくクラウドサービスとして提供することで低価格化を実現し、中堅・中小企業でも導入できるようにしたのがCarelyというわけです。もちろん、拡張性が高いので、数千人〜数万人規模でも対応は十分可能です。
50人以上の企業には労働安全衛生法で健康管理が義務付けられていますが、実際の利用者としては、500人から1万人くらいの規模の企業が多いですね。企業規模はある程度大きいけれども担当者は数名程度で、すでに健康管理をExcelなどで行っているが効率化を望んでいる、という企業からの問い合わせが増えています。
――つまり、ほどよいサイズのサービスがなかったと。そこへCarelyを提供した。
それと、私がCarelyを立ち上げたのには、もともと自身が産業医として健康管理業務で忙殺された経験があることも関係しています。複数の会社を担当し、ExcelやAccessで作られたデータベースをもとに一人ひとり面談していたのですが、名前や職歴、現在の仕事内容、病歴などのヒアリングから始まるのです。過去の健康診断の結果は紙や別ファイルにあり、時には用意されておらず自己申告のときもある。時間も手間もかかり、かつ適切な面談ができないジレンマがありました。拠点が複数あるところなどは、書類やファイルを外部に持ち出す必要もあり、いっそう気を使いましたね。これが効率化できれば、もっと産業医として提供できることも多いのにと、ずっと考えていました。
理想として考えていたのが、すべての健康情報や勤務状況が一元管理されており、場所を問わず閲覧ができ、かつセキュリティがしっかりしているもの。それをテクノロジーで形にしたのがCarelyというわけです。
――切実なご経験から生まれたのですね。
はい、とにかく手間と時間がもったいないと思っていましたからね。でも、産業医だけでなく、会社側の担当者も紙で提出されるものをデータに取り込んだり、産業医に情報を提供するためにプリントしたり、大変なわけですよ。実際、今も紙やExcelでやっている会社の方は、さらにコロナ禍で出社がままならない状態で約3か月間は仕事ができなかったと聞きます。一方で、「Carelyを導入していたから助かった」という声をたくさんいただきました。
さらに、人事部門の方から「導入しておいてよかった」と言われるのは、「不調者対応」に関してです。Carelyを使って健康状態を記録していれば、ほぼリアルタイムで産業医にも共有でき、何か予兆があればアドバイスや指示をもらえますし、経営層にもすぐに伝えて迅速な対応ができます。それによって従業員の健康を守ることができるというわけです。
そのほか、Carelyには法令に基づいた対応を行えるようにアルゴリズムが組み込まれているので、もし誰かが不調をきたしたときにも、それまでの記録を「今まで適切に対応してきた」という証として出すことができます。
不調者対応に関して、人事が最も疲弊するのは、休職・退職などで人材が減るリスクもさることながら、訴訟などのトラブルに発展することです。もちろん不誠実な対応を続けていたならば罰せられるべきですが、大方の事業者では適切に対応しており、その記録をきちんと提出することで必要以上のトラブルを回避することができるというわけです。