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過労自殺と安全配慮義務違反(京都地裁 平成17年3月25日)

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2020/12/24 08:00

 厚生労働省が2020年6月に発表した「令和元年度 過労死等の労災補償状況」によると、2019年に自殺(未遂も含む)で労災認定されたのは、前年度比12件増の88件。現在も少なからぬ人が、過労を原因として自殺を図っています。今回取り上げる事件も、長時間労働と業務の重圧の中、うつ病を発症し、自殺に至ったケースです。会社は約8000万円の賠償金を遺族に支払うことになりました。もちろん、尊い命はお金に代えられるものではありません。このような事件を起こす原因と起こさないための対応を、本稿から学び取ってください。

1. 事件の概要

 従業員(以下「太郎」)の相続人の原告らが、太郎は会社(以下「被告」)の業務遂行に係る長時間労働、過重な業務内容および不本意な異動の内示等によりうつ病を発症し、自殺したと主張し、雇用契約上の健康配慮義務違反(安全配慮義務違反・民法415条)に基づき、損害賠償を求めたものです。

 裁判では、被告の責任を認めて、損害賠償金を支払うことを命じました。損害額は、逸失利益約5312万円、死亡慰謝料2600万円などが認められました。

 事件の概要は、以下のとおりです。

(1)当事者

被告

 被告は、レストランの経営、飲食および喫茶営業等を目的とする株式会社です。太郎が死亡したとき、被告が経営する店舗は7店舗で、店長は6人でした。

 被告の代表取締役は乙山三郎(会長職、以下「三郎会長」)および丙川四郎(社長職、以下「丙川社長」)の2名、取締役は三郎会長、丙川社長、丙川竹子(専務職、以下「竹子専務」)およびA(N店店長および営業部長を兼務、以下「A営業部長」)の4名でした。

太郎

 太郎は、昭和50年7月16日にアルバイトとして勤務し、その後、同年9月に正社員として雇用契約を締結しました。太郎は、N店に当初配属され、昭和61年2月から三条店調理場主任(以下「チーフ」)、平成4年7月から三条店店長として勤務していました。

(2)太郎のタイムカードによる出勤日数及び労働時間など

 平成7年1月21日から平成8年2月14日まで(390日間)の出勤時間および労働時間は、次のとおりでした。

  • 出勤日数 368日
  • 合計労働時間 4350時間53分
  • 平均労働時間 約12時間09分

(3)三条店について

①三条店の営業時間など

 従業員は、交代制で1日8時間就労することとなっており、45分間の休憩時間が設けられていましたが、実際には、午後3時頃のいわゆるアイドルタイムに交代で、30分程度の休憩を取っていました。太郎も、アイドルタイムに休憩をしたり、私用のため外出したりすることがありました。

②三条店の位置づけ

 三条店は、被告の経営する7店舗中、最も売上の多い店舗でした。

③店長について

店長の勤務時間 

 店長の出勤時間および退勤時間につき、定めや指示はありませんでしたが、タイムカードによって店長の出退勤は管理されていました。

店長会議

 店長会議は、毎月中旬および27日頃の月2回、開催されていました。

従業員の手配、管理および交代要員の確保(毎週の業務) 

 店長は、毎週、時間帯ごとに必要な人員を算定して、被告から指示された売上の一定割合の人件費の範囲内で、各従業員の出勤日、出勤時間、退勤時間を定めて、出勤の手配、管理、および休業・欠動時の交代要員の確保といった従業員の出勤管理を行っていました。

毎日の業務

 太郎は、開店準備、閉店後の業務の時間帯も勤務し、自ら率先して業務を行っていました。  

 三条店では、繁忙時間に、客からの注文内容、調理場への注文の伝達、注文に応じた食事の提供を確認し、指示・采配を行う「花番」と称する業務が行われていました。

 太郎は、自ら花番を行うことが多くありました。花番は、立ちっぱなしで注意を払いながら行う必要があり、混雑時には身体的にも精神的にも、非常に疲れる業務でした。

会計管理

 太郎は、自ら、確認作業および閉店後の当日の集計、記帳、現金確認、夜間金庫への預け入れを行うことが多くありました。

丙川社長

 丙川社長は、三条店の営業時間中に頻繁に、被告全体の経営の方策や三条店の売上増加策等について太郎に相談したり、着想を求めたりしていました。

営業部長

 A営業部長は、太郎の三条店店長の就任前および太郎の自殺後に、三条店店長として勤務していました。三条店店長として、1日平均12時間程度勤務していました。

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著者プロフィール

  • 坂本 直紀(サカモト ナオキ)

    人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。
    ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、書式等を掲載中。
    主な著書に、「ストレスチェック制度 導入と実施後の実務がわかる本」(日本実業出版社)、「職場のメンタルヘルス対策の実務 第2版」(編著、民事法研究会)、『「働き方改革関連法」改正にともなう就業規則変更の実務』(清文社、共著)など。

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