パネリスト
- 曽山哲人氏(株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO)
- 中根弓佳氏(サイボウズ株式会社 執行役員 人事本部長兼法務統制本部長)
モデレーター
- 曽和利光氏(株式会社人材研究所 代表取締役社長)
緊急事態宣言下の混乱で学んだこと
曽和利光氏(以下、曽和):まず最初に、新型コロナでどんな問題に直面し、どんな危機意識を持ったかから話を聞かせてもらえますか。
曽山哲人氏(以下、曽山):みんなが集まることを大事にしている会社なので、いつリモート(ワーク)に切り替えるかについてはギリギリまで議論しました。全社リモートに切り替えたのが3月30日のことでしたから、4月に入社した新入社員が最も影響を受けました。自宅にPCがない人もいるので、新卒研修の最初は暫定的にスマートフォンだけでできるワークをやりました。「みんなと会いたい」と思っている社員のリアルと感染させてはいけないというリアルのせめぎ合いでしたね。
中根弓佳氏(以下、中根):サイボウズの場合、最初に異変を感知したのが中国・上海のメンバーでした。日本で社内の雰囲気が変わったのが2月頃です。以前から仕事に集中するための前提として「安心安全」を重視してきましたが、2月末からリモートを基本にしたことで安心安全は担保されたものの、今度は「サボっていると思われているのではないか?」と不安になる社員が出てきたのです。幼保等の施設の休所や休校等あり、業務を行うだけでなく生活の負担に変化があるメンバーもいました。そこで「必要ならば家事や子供の世話をしていい。それで仕事をサボっているとは思わない」というメッセージを打ち出しました。その結果、みんなが自分の状況を正直に話していいという共通認識が生まれたと思います。リモートでは見えないからこそ、公明正大であることが重要です。
曽和:その後、緊急事態宣言が解除されて以降、より多くの問題に直面した企業もあったのではないかと思います。元に戻すときにどうするかは自由です。サイバーエージェントさんのように集まることを重視している会社は、合意形成が大変だったのではありませんか。
曽山:感染予防のために全員リモートに移行したわけですが、リモートでもできるという経験ができました。では、サイバーエージェントらしくどうするか。それを決めるために役員全員で合宿をしたのです。そのとき、「僕らは集まることで熱量を作ることができ、それが競争力の源になる。それを大事にしよう」と決めました。
そもそも、感染予防と生産性を上げるためのリモートワークは違うと思います。今回の経験から学んだのは、リモートにも良い点があることでした。今(2020年10月当時)は月・木がリモート勤務の「リモデイ」で、火・水・金は出社という運用をしています。また、ご家族のサポートが必要な人や遠距離通勤の人など感染リスクを下げたい人は、申請をすれば出社日でもリモート勤務が可能です。
中根:感染拡大時の対応として、4段階の緊急度に応じた行動方針を決めました。通常時がゼロで、国と地方自治体の方針を見ながら緊急度を判定し、きめ細かく対応するようにしています。具体的には、今はこれがベストだと思っていることを決めたら早めにそれを出す。正解は誰にもわかりません。状況が変わったら見直しますが、できるだけ情報を早く出すことを心がけています。
以前からグループウェアを作っている会社としても、私たちは情報の透明性が大事だとずっと言ってきました。仕組みの定着と意識が根付き始めた頃から一気にみんなが情報を公開し始め、社内のグループウェアの書き込み数は以前の5倍に増えたのです。もちろん中には仕事以外の書き込みもありますが、積極的に情報を公開して自分のことを分かってもらおう。仲間のことを知ろうという意識が高まったと考えています。