日本のDXはプロセスイノベーションから始めよう
「改めてDXとは、デジタルを“てこ”にした新たな顧客価値創造のことである。つまり、単に古いテクノロジーを新しいテクノロジーに置き換えたり、ペーパーレス化・デジタル化したりすることが目的ではない。あくまでもデジタルという技術を“てこ”にして、HRのサービスモデルを変革し、顧客(従業員)価値を高めることに意味がある」と始めた鵜澤氏。
その上で、「デジタル競争力は世界63か国中、日本は23位 (スイスビジネススクールIMD発表 デジタル競争力ランキング2019)」「世界経済フォーラム(ダボス会議)がまとめたIT競争力ランキングで日本は2019年に12位(日本経済新聞2020年7月17日)」など、デジタル化推進や関連デジタル人材面で大きく出遅れている日本の現状を示した。
さらに、マッキンゼーが2020年9月にまとめた「デジタル革命の本質: 日本のリーダーへのメッセージ」を引用し、他の企業変革に比べて、デジタル変革の成功がいかに困難であるかという事実について、次の3つのポイントを提示した。
- 世界的に見ても、通常の企業変革の成功率が30%程度に対し、デジタル変革の成功率は、その約半分の16%程度に過ぎない
- 伝統的な業界では、さらに低い成功率。製造業・エネルギー・インフラ・製薬では、デジタル変革の成功率は4〜11%程度
- デジタルで生み出される価値の7割は既存事業の変革。新規ディスラプティブなビジネス創造は3割
イノベーションには、「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」の2つがある。その名のとおり、前者は “ゼロ→イチ”的アプローチで製品・サービスを創造するものであり、破壊的イノベーションとも呼ばれる。一方、後者は既存の工法や手順からの業務革新であり、漸進的イノベーションとも呼ばれる。
GAFAをはじめとするサービスが市場を席巻したことで注目されてきたプロダクトイノベーション。当たれば効果は大きいが、投資額が多く、成功率も低い。世界的にも極めて母数の少ないハイスペックな技術者とアントレプレナーシップを持った起業家がいないと立ち上げることは難しい。
一方、プロセスイノベーションは、日本が得意としてきた“カイゼン”に近いイメージであり、ビジネス上の課題を特定できることが鍵となる。必要となるデジタルの知識は、文系の人でも後天的に身に付けられる汎用的なもので事足りる。
「したがって、日本企業が狙うべきはプロセスイノベーションだ。非効率・高コストなど、現業で課題感を持っているところにデジタルの要素を入れながら、クイックインで着実に成功を積み上げていくことが大切。そして、これを担うのは、どこかにいるスーパースターではなく、皆さん自身なのです」(鵜澤氏)