OpenStack運用を効率化するハイパーコンバージドインフラ(HCI)
EMCジャパン株式会社 アドバイザリーシステムエンジニア 吉田尚壮氏は、デジタル変革と新しいインフラの潮流について触れ、OpenStack運用の効率化を実現するハイパーコンバージドインフラ(HCI)の概要を示した。
UberやAirbnbなど、デジタル技術を駆使してアイデアをビジネスとして拡大し、既存市場のシェアを新たに塗り替える企業が増加している。多くの企業は、こうしたデジタルディスラプター(Digital Disruptor)の台頭に脅威を感じ、企業におけるITの在り方を見つめ直そうとしている。企業のビジネスを支える基盤としてのITから、新しいビジネスを創造し、競合に負けないサービスを提供するためのITへというデジタル変革の波はすぐそこまで押し寄せている。
最近では、従来のITシステムをSoR(Systems of Record)、今後志向すべきITシステムをSoE(Systems of Engagement)やSoI(Systems of Insight)と呼ぶことがある。システムにデータを蓄積するだけでなく、蓄積したデータを分析した結果から新しい価値を見出し、サービスとしてどんどん提供していこうというのだ。「そこでは価値あるデータの蓄積、インテリジェントな分析による新しい価値の創造、競争力のあるサービスがデジタル変革に必須となる」(吉田氏)
従来型ITは信頼性と安定性を重視し、高い可用性を確保するために、ネットワーク、サーバ、ストレージなどを個別に調達して接続し、時間をかけて開発・テストを行う。一方、新しいITでは、俊敏性と伸縮性を重視する。クラウドを当たり前に利用し、開発サイクルをより速く確実に回して新しいサービスを提供していかなければならない。従来型ITとは異なり、アプリケーションレベルで可用性を確保する。
吉田氏によれば、ストレージに関しても変化が現れているという。「専用ストレージ装置が減り、代わりに汎用サーバーで稼働するSDS(Software Defined Storage)が伸びている」(吉田氏)。その背景には、サーバのスペックが上がり、専用ストレージ装置が不要になるという理由がある。また、消費電力が大きく、故障率も高い磁気ディスクの代わりに、低価格化が進むフラッシュドライブが当たり前に使われるようになったことも変化を後押ししている。
そこで注目を集めているのがHCIという考え方である。HCIは簡単にいえば、専用ストレージ装置を利用しないインフラのことだ。短期間で導入可能、初期設定が簡単かつ速い、インフラ管理が容易といった特長がある。HCIでは、SDSにより各サーバの内蔵ディスクを論理的にまとめ、サーバ間で共有可能にする。スケールアウトが必要になれば、サーバを追加するだけでよい。
調査会社のIDCが昨年5月に発表した「国内企業におけるOpenStackの導入状況に関するユーザー調査結果」では、OpenStackに期待する効果として、「クラウド基盤の運用の効率化」「クラウド環境の構築の迅速化」「アプリケーション開発の迅速化」との回答が多かった。しかし、「OpenStackのインフラとなるサーバやストレージなどのリソースの追加に時間がかかるようでは、OpenStack導入の効果は十分に得られない。OpenStack導入企業は、今インフラ部分を見直す時期に来ている。拡張性を必要とし、OpenStackを効率的に運用したいなら、HCIやSDSの活用が鍵になる」(吉田氏)
OpenStackの役割は、コンポーネントのオーケストレーションである。コンポーネントの下に位置する物理サーバやストレージの運用管理を極力自動化、簡素化することが、全体的に見てOpenStackの運用を効率化することにつながると、吉田氏はさらに指摘する。インフラ管理者は、業務アプリケーションが稼働するインフラをきちんと作ることに責任を負わなければならない。その一方で、ITを使ってビジネスを展開していくときのインフラは小規模で構築し、簡単に拡張できるようにする必要がある。その場合に、HCIは有力な選択肢となるだろう。
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最後に、LPI-Japan 理事長の成井弦氏が登壇し、LinuxやNVIDIAを例に挙げながら、OpenStackを使って優位性を築いていくためにはまずOpenStackエンジニアの育成が重要であると述べ、OPCELビジネスサミット2016の幕を閉じた。その後に行われた参加者同士の交流会は、OpenStackに関する情報や体験談、人材育成に関する意見をやり取りするなどで大いに盛り上がっていた。