リンクアンドモチベーション(LINK&M)は、「人的資本に関する意識調査」を実施し、その結果を発表した。
調査の概要は以下のとおり。
- 調査方法:インターネットによるアンケート
- 調査対象:1000名以上の企業における経営者、課長以上の管理職
- 有効回答数:1000名
- 調査実施日:2022年9月22日~28日
調査の結果については、同社は以下のように述べている。
企業の持続的な成長に向けて、大手企業の管理職の過半数が「人的資本」を重視
企業の持続的成長に最も重要だと思う非財務資本について質問したところ、1位「人的資本(51.3%)」が他項目に対して差をつけた。続いて、「製造資本(15.3%)」「知的資本(14.6%)」「社会・関係資本(14.3%)」と並んだ。
「人的資本経営」に対する認知が高まり、取り組みが本格化した2022年。様々な調査が行われたが、多くは「投資家目線」での人的資本経営の必要性の言及にとどまっており、取り組む社内の意識や認識は明確にされていなかった。今回の調査では、持続的成長に重要な資本として大手企業の管理職の過半数が人的資本を重視しており、他資本よりも重要性が高いと認識していることが分かった。
3月の同社調査「機関投資家の非財務資本開示に関する意識調査」においても、非財務資本の中で、今後より開示が必要だと思う項目については、エンゲージメントやダイバーシティ&インクルージョン、人材開発を含む「人的資本」が最も高く(70%)、近年注目が集まっている非財務資本の中で人的資本が最も重要であると、企業内外から認識されていることが明らかになった。
人的資本に関して管理職が必要だと感じる取り組み1位は「人材活用の最適化(57%)」で、2位に「従業員エンゲージメント(56%)」
自社でさらなる取り組みが必要だと感じる人的資本の項目を複数選択で質問したところ、1位は「人材活用の最適化(57%)」、2位は「従業員エンゲージメント(56%)」、3位は「人材育成投資(51%)」という結果となった。
戦後の高度成長期からバブル期を通じて、多くの企業が終身雇用や年功序列型の人事制度を設け、企業と従業員は「相互拘束関係」を続けてきた。従業員もまじめに勤めていれば定年退職まで企業が面倒を見てくれるという安心感から忠誠を尽くしていたからこそ、企業が「人材活用」をする、「従業員エンゲージメント」を向上させる重要性は高くはなかったと捉えられる。
しかし、現在は人材の流動化が進み、企業と個人の関係は「相互選択関係」に変化した。結果、企業が「人材の活用や育成が計画的に行えていないこと」「従業員エンゲージメントの向上に取り組めていないこと」が課題として顕在化していることが推察される。
非財務資本への取り組みにおける満足度として、「非常に満足」「満足」の割合は人事系部門以外の管理職で28% 人事系部門の管理職では50%以上が「非常に満足」「満足」を選択
自社の非財務資本への取り組みに満足しているかを聞いたところ、「非常に満足(4.5%)」「満足(24.3%)」で、満足している管理職は人事系部門以外の部署において3割を切る結果となった。一方、同じ設問に対して、人事系部門の管理職に聞いたところ「非常に満足(7.7%)」「満足(43.6%)」で、満足している人事系の管理職は全体の5割に至った。
非財務資本への取り組みの満足度やその課題感において、人事系部門以外の管理職と人事系部門の管理職の間に差が生じていることから、多くの人事が、他部署と視界を共有できていないという課題が生じている恐れがあることが示された。2020年9月に公表された人材版伊藤レポートにおいても、経営や事業戦略と人材戦略を「つなぐ」役割としてのCHRO設置が重要視されているが、課題や課題解決後の効果把握に関して人事と現場の認識合わせ(対話)が足りていない状況であることが推察される。
今後、人事はCHROクラスによる「経営レイヤーでの連携」と合わせて、現場の課題感を把握、解決するという「HRBPとしての連携」の強化が必要である。ただし、連携をして課題解決に注力するためには、現場との認識合わせから行わなければ「人事の取り組みは現場の邪魔になっている」という感情的な対立も起こりかねないため、まずは現場と課題認識を合わせることで「現場の課題を解決するために人事が協力してくれる」という状況に変えていくことが重要だといえる。
「従業員エンゲージメント」を知っている管理職の割合は46% 世代別で見ると、30代の認知率は50%、40代の認知率は45%、50代の認知率は40%
「従業員エンゲージメント」を知っているか聞いたところ「知っている(46.2%)」「聞いたことはあるが理解していない(35.4%)」「知らない(18.4%)」という結果になった。
「従業員エンゲージメント」の認知度は、若手世代が高いという結果となった。認知をしている人の8割以上が課題を感じているという結果から、今後取り組みの継続に加えて、世代間の認知ギャップを埋める必要性があると考えられる。
「従業員エンゲージメント」を認知している人のうち、課題を感じているのは84%
従業員エンゲージメントを「知っている」と回答した人を対象に、「従業員エンゲージメント」に感じる課題があるか聞いたところ「はい(84%)」「いいえ(6%)」という結果になった。
自社の「従業員エンゲージメント」向上に向けた課題の1位は「将来的な安心感の醸成(44%)」
従業員エンゲージメント向上に向けた課題について聞いたところ、1位は「将来的な安心感の醸成(44%)」、2位は「理念や戦略への共感の醸成(42%)」、3位は「仕事のやりがいや意味の感受(40%)」という結果になった。
年代別で見ると、30代が感じる課題の1位は「理念や戦略への共感の醸成(46%)」、40代は「将来的な安心感の醸成(53%)」、50代は「将来的な安心感の醸成(36%)」「全社的な連帯感の醸成(36%)」だった。
課題を感じている項目は、「上司や職場」と「従業員」との間ではなく「会社」と「従業員」との間に集中した。「将来的な安心感の醸成」「理念や戦略への共感の醸成」「仕事のやりがいや意味の感受」を踏まえると、会社と従業員の対話の少なさ(会社のメッセージを従業員に届ける機会の不足)が解決すべき点だと見受けられる。
2010年以降、「理念の共有」の必要性が多く取り上げられてきたことで取り組んだ企業も多いが、「従業員エンゲージメント」における課題として根強く残っている今回の結果からも、多くの企業で取り組みが「打ち上げ花火」で終わってしまっている可能性が見受けられる。人材版伊藤レポートでも、企業理念や存在意義に立ち返る必要性が書かれていることから、今一度取り組み、継続していくことが必要であるといえる。
【関連記事】
・約8割の企業が人的資本経営に「取り組んでいる」と回答、AI・DX人材不足が課題―パーソルHD調べ
・大企業の8割が人的資本経営に関する業務に課題、「散在している人事データの統合が難しい」が最多―jinjer調べ
・「人的資本経営」を優先度高く議論している企業は36%、取り組み・検討項目は「人事情報基盤の整備」が上位―JMAM調べ