新人・若手を取り巻く環境
そもそも、企業人事の中で「オンボーディング」が着目され始めた背景には、個人のキャリア自律意識の高まりや中途求人数の拡大を受けた人材の流動化が2020年頃から徐々に加速し始め、転職者が増加したことで、組織にとって新しい人を受け入れる機会が単純に増えたことが遠因にあります。
また、20代の転職意向は6割を超えるなど[1]、組織側が苦労して採用~受け入れを行っても突然優秀な新人・若手が辞めてしまうという実感を持つ企業も少なくありません。加えて、リモートワークに代表されるような働き方の変化が後押しし、今までのオンボーディングの考え方や施策では通用しない、という課題感から弊社にご相談をいただくケースが多くなっています。
今の時代に適したオンボーディングのあり方を模索していくにあたり、もう少し解像度を上げて新人・若手を取り巻く環境を見ていきましょう。
注
[1]: リクルート「就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022 PDF」
(1)経験や価値観の変化
1990年代後半以降に生まれた「Z世代」が新人・若手として働く時代になりましたが、仕事や職場に対しての価値観はどのように変化したのでしょうか。2012年と2022年の10年間を比較した図表1を見ていきましょう。
上司世代にとっては当たり前だった、もしくは組織文化として叩き込まれたような要素(目標の共有・鍛え合い・活気・厳しい指導・引っ張るリーダーシップ・仕事への情熱など)の選択率が下がり、Z世代にとっては「お互いに助け合い、尊重し合う職場」「丁寧に指導し、かつ褒めてくれる上司」を理想と捉え、期待していることが分かります。
また、図表2は新入社員に「仕事をする上で重視すること」を聞いたアンケートですが、外発的な動機(達成・承認・金銭など)よりも内発的動機(貢献・成長・やりがい)を求めていることが分かります。
(2)リモートワークを中心とした働き方の変化
コロナ禍の影響によりリモートワークが主体になったり、頻度が格段に増えたりするなどして、働き方が激変したことは記憶に新しいことです。その影響を受けて、図表3では上司とのコミュニケーションの頻度が減少したと感じている群が3割前後も存在していること、またメンバーから上司に対して伝えてほしい内容にギャップが生じていることが分かります。
ただし、オンラインでのコミュニケーション自体が悪と捉えるのは早計です。入社当時からリモートワーク中心となった2020年入社世代でも、元々慣れているチャットツールなどを駆使した文章でのコミュニケーションは逆に増加しましたし、気軽に情報を発信できるといったメリットを享受して組織に馴染んだケースも多くあります。問題は、受け入れ側が適応できない場合があることや、コミュニティが限定されて社内で人脈を広げる機会が減少し、情報の偏りや学びの阻害につながってしまうことです。
(3)転職に対する考え方の変化
冒頭でも触れたとおり、キャリア自律の高まりやジョブ型雇用の増加を踏まえた人材の流動化は、新人・若手にとっては当たり前のことになりつつあります。また、勤続意向に対する価値観も図表4で示すとおり、「1社にこだわらないキャリア」志向が大半を占めています。