「何の仕事のための勉強か?」が見えれば続けられる
林:以前、とある資格取得体験に参加してみたことがあるんですが、そこでは1~3か月で一通りの開発スキルを習得でき、就職先の指導もしてくれました。しかし、勉強自体は図書館のような自習スペースで、自分1人で行うのが基本だったんです。自分がやる気になればかなり活用できる環境なんですが、はたして初心者のどれくらいの人がきちんと自習できるのか、脱落せずに続けられるのかと。
吉谷:自習形式の学習自体は自分のペースでやれるので、合う人には最適な方法だと思います。ただ、「自習で学習できないやつはダメだ」と切り捨ててしまう風潮には、やはり引っかかるところがあります。入社してくる人のほとんどが未経験者であるにもかかわらず、フロイデが1987年の創立から今日まで成長を続けてこられたのは、まず仕事があって、それをやり遂げるために勉強するという基本姿勢を、彼ら・彼女らにずっと示してきたからだと思っています。
お客様のニーズが「仕事」としてはっきりと見え、その目標達成のために勉強する。やはり、勉強って仕事とリンクしてないとしんどいですよ。達成目標もなく、漠然と勉強を続けていたら、途中で心が折れてしまうのも分かります。特に日本企業では研修と仕事がつながっていないケースが多く、目標の見えない勉強になりがちです。
林:日本企業のいわゆる研修は、会社と社員の双方から、福利厚生の延長のようなとらえられ方をしている印象があります。「何のための勉強」ではなくて、「この勉強がいつか役に立つんじゃないか」みたいな。
吉谷:本当にそうですね。何となく開催して何となく受講して、具体的な成果も求められない。本来は、会社のビジョンやビジネスモデル、業務戦略にある程度沿った形で研修を設定するべきです。学んだことが業務で役に立たないのでは、当人、会社の両方にとってもったいない。
林:その目的意識を、未経験者の取り込みと育成にも反映させていくと、今後IT人材の不足を補う上で、大いに貢献できるのではないかと思うのですが。
吉谷:おっしゃるとおりです。未経験者への門戸は、もっと広げなくてはいけません。でも、企業の側でのそうした取り組みは、なかなか聞こえてきませんね。ところで林さんは、これだけIT人材が足りないと言われながら、未経験者の門戸が狭いままなのは、なぜだと思われますか。
林:ううん、改めて考えたことはありませんでしたが、個々の企業や学習者のレベルではなく、もっと根本的な構造が未経験者の参加を妨げているような気がします。
吉谷:私もそう考えています。日本企業が行っているシステム開発のほとんどは、「ウォーターフォール型開発+SIerへの常駐委託」なんです。この開発スタイルだと、分析や設計、デプロイなどはともかく、開発の期間だけ大量に人手が必要になります。それでも、COBOLで開発をしていた20~30年前のプロジェクトは3年スパンといった長期が前提だったので、プロジェクトの最初の3か月で人材を育成し、大量需要期に備えるといったスキームが可能でした。それがJavaの登場で、大規模なシステムでも数か月間だけ人手を集中させれば済むようになってしまいました。
林:そうなるともう即戦力ということで、経験者ばかりを募集することになりますから、プロジェクトの中で新人を育てる仕組みも失われますね。
吉谷:ええ。さらにJavaだと、Interfaceをimplement(実装)させることをルールにしてしまえば、プログラミングに対する基本的な教育を受けていない即席コーダーでもなんとかなっちゃいます。そういう人材であれば派遣でいくらでも集められるので、プログラミングができるエンジニアを自社内で育てる必要すらなくなりました。その結果、大きい会社ほどプログラミングができるエンジニアがいない、という現在の状況が生まれたように思います。