「食べていく」覚悟が決まれば学習の目的も見えてくる
林 優子氏(以下、林):フロイデ株式会社(以下、フロイデ)では、未経験者を積極的に採用・育成されているとうかがいました。主に、どのような人が応募して来られるのでしょう。
吉谷 愛氏(以下、吉谷):当社では、「無職・フリーターを含む未経験者を1000人エンジニアにする」というミッションを掲げています。そのため、未経験者からの応募が非常に多くなっています。しかし、テストをしてみると、現役エンジニアに負けず劣らずのなかなかのスコアを出される優秀な人も少なくありません。「新卒一括採用の世の中で新卒のカードをうまく切れなかった人」が目立ちますね。
林:すると、「最初からIT業界を目指してきたわけじゃない」という人の応募も多いと思います。そうした人たちがプログラミングやシステム開発の道に入ろうとするときに、どういった意識付けや説明をなさっていますか。
吉谷:これまで無職やフリーターだった若い人に、まず必要なのは「このまま行くとどんな未来が待っているか、自分の眼できちんと見なさい」というアドバイスです。そこを甘く考えていると、本当にシビアな人生が待っているからです。
私は29歳のある日、とつぜん自分が家計を支えることになりました。夫が事故に遭って働けなくなったんです。結婚前もプログラマとしての勤務経験はあったのですが、それでもすぐに選べる仕事といったら、多重派遣の下積みのプログラマくらいしかありませんでした。経験者でもそうなのだから、ましてや職歴のない人には、「今の日本は非常に厳しい状況で、いったん新卒のカードを切り損ねたら大変なんだ」という事実を、最初に認識させています。
そういう厳しさを理解できたなら、ITというのは困難な現状から抜け出し、自分の望む生活を築いていくのに、非常に有効な方法であり職種だと思います。
林:たしかに、本人の努力次第で確実にステップアップしていけるITには、キャリアを積み上げる上でさまざまな可能性がありますね。
吉谷:IT業界で必要とされる人材となるのに、「他人が真似できない圧倒的なプログラミングスキル」が絶対になければいけないわけではありません。むしろ、お客様にどんなニーズがあり、その要望に応えるにはどの技術を使えばよいのかといった「仕事として考える」視点を持つことや、そこからチームの一員として、お客様に価値を提供するサービスを実装できることが重要です。仕事である以上、やはりお客様の期待に応える成果物を提供し、最終的には自社の売上や報酬に結び付けられることが基本要件だからです。常にお客様が正解を持っているわけではないので、なおさらそういう視点が必要になってくると思います。
林:人生をきちんと考えてキャリアアップしていこうという人には、いわゆるスーパーエンジニアではなくて、確実にビジネスに貢献できるエンジニアを目指してほしい。
吉谷:ええ。もちろん、スーパープログラマがIT業界で様々なパラダイムシフトを起こしてきたことは事実ですし、これからもそういうプログラマのニーズが増えていくでしょう。ですが、そういうスーパープログラマでなくても「プログラミングやシステム開発を仕事として見られるようになれば、おのずと仕事をする目標も見えてくる」ということを、私は自分が厳しかった時代に体験しました。
結婚前にプログラマをやっていたころ、私は周囲に認めてもらえなくて、ひがんだり悩んだりしていました。それが夫が事故に遭い、自分が家計を支えることになったとたん、プログラミングが、日々の生活を維持し家族を養うための仕事へと変わりました。自分を認めてほしいなんて漠然とした欲求を満たす手段ではなくなったんです。
林:開発プロジェクトでも、ここで自分が逃げたり、しくじるわけにいかないと覚悟が決まると、いろいろなものが見えてきますよね。
吉谷:そうなんです。「この仕事で食べていくにはどうしたらいいだろう?」と考えれば、自然とお客様に目が向きます。お客様からちゃんと報酬をいただくには、お客様が何を欲していて、自分が何を期待され、どんな技術を提供できるのかを真剣に考えなくてはなりません。
たとえば、お客様からデータベースを構築したいと言われて、自分に知識が足りないと思えば、きっと自発的にデータベースの勉強をしますよね。それでも足りなければ、そういう知見のある方に相談し、あわよくばチームに引き込んじゃう。明確な目的があれば、自ずと学習内容は漫然とではなく体系的になってくるし、それで製品やシステムの質が高まればお客様の満足につながる。それを繰り返しているうちに、いつの間にか周りの人から評価してもらえるようになる。私がまさにそうでした。