登壇者
新田 章太(にった しょうた)氏
株式会社ギブリー 取締役 兼 Trackプロダクトオーナー
2012年3月に筑波大学理工学群社会工学類経営工学専攻卒業。学生インターンシップ時代に「エンジニア」領域に特化した支援事業を株式会社ギブリーにて立ち上げ、入社。現在は取締役を務める。オンラインプログラミング学習・試験ツールなどの自社サービスを立ち上げ、同社のHR tech部門を管掌。また、日本最大規模の学生ハックイベント、JPHACKSの組織委員会幹事を務めるなど、若い世代のイノベーターの発掘・支援にも取り組んでいる。
市村 一真(いちむら かずま)氏
株式会社NTTデータユニバーシティ サービスオペレーション部 課長代理
2010年4月SIer企業のシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、派遣会社のエンジニア部門に転職し、クライアント企業のシステム環境再構築を複数担ったのちに教育・採用グループの立ち上げに関与する。2017年株式会社データユニバーシティに入社し、現在では階層・役職別の研修実施をメイン業務として従事する。
昨今の新入社員の傾向と研修の課題
約50社の研修会社とアライアンスを組みながら、NTTデータグループを中心に人材育成ソリューションを提供しているNTTデータ ユニバーシティ。いわば研修の商社だ。毎年4~6月はNTTグループの新卒入社者を対象としたグループ研修を行っており、今年の対象者は1400人と、その規模は年々増加しているという。
コロナ禍になる前の2018年ころから研修のDXに着手していたという同社。市村氏は過去5年間を振り返り、次のように語る。
「SIerに関しては、入社する人材のプログラミングスキルレベルが二極化する傾向が出てきました。そのため、経験者層に対しても未経験者層に対しても、それぞれでフォローを求められるのが課題でした。さらに、今年入社したのは大学生活のほとんどがコロナ禍で、オンラインでのコミュニケーションを余儀なくされてきた世代。これまでやってきた研修のDXをさらに発展させていかなければならないと感じました」(市村氏)
DX化を図る以前のNTTデータ ユニバーシティは、新入社員研修において次図のような課題があったという。
新田氏によると、IT人材不足が叫ばれる中で、さまざまな会社が未経験者の採用を余儀なくされている。そのため、プログラミング教育の裾野も広がり、スキルレベルにばらつきが出る傾向が顕著だという。
「加えて、今年入社した人たちはコロナ元年世代で、コミュニケーションはオンラインがベースになっています。研修でどのようにスキルを引き上げて、現場配属へとつなげていくかは、各社の非常に大きなテーマになっていると感じます」(新田氏)
「Track」を活用した研修DXの3つのステップ
では、NTTデータ ユニバーシティの具体的な取り組みを見ていこう。同社では、3つのステップで研修のDX化を図ってきた。
STEP1:オンライン化による自律自走型学習支援と研修運営体制の構築
まずは、PDF・Word形式で管理されていた動画(93本)・教材(72本)・演習問題(401問)をすべて「Track」内の専用LMS(学習管理システム)に集約するところから着手した。紙の資材は保管コストがかかるうえ、更新などの品質管理をすることが難しい。さらにセキュリティの観点からも漏洩リスクにさらされてしまう懸念があったからだ。
次に、オンライン化したことによって受講者のモチベーションが低下してしまうのを防ぐために、同社ではオンライン上のコミュニティで人の輪をつくったり、趣味が同じ人同士が会話できるプラットフォームを準備したりして、アウトプットできる環境をそろえたという。
「最近ではオンラインでのコミュニケーションに慣れたようで、『疎外感がある』というアラートは減りました。むしろコミュニティが盛り上がりすぎて、どう整理しようかという方向にシフトしています」(市村氏)
また、オンライン化による大きなメリットは、質問が増える教材や初心者の進捗が思わしくない部分を特定できるようになり、教材改訂のスキームを構築できた点だという。Trackの中で「この人はここでつまずいているな」「ここで止まっている人が多いということは、ここが分かりにくいのだな」という箇所が分かり、すぐにアップデートできる。印刷済みの教材を改訂するのは時間もコストもかかって大変だが、改善箇所を見つけたら即座に改訂できるというのは、オンラインならではの利点だ。
さらに、オンライン化により、オペレーションや講師に関わるコストの大幅削減につながったと市村氏は語る。オフラインの研修で3つのクラスをつくろうと思うと、3人の講師を立てるか、1人の講師が3回に分けて講義をする必要があった。一方、オンライン研修ではクラスをいくらつくっても講師の人数を増やす必要はない。習熟度によって物理的な部屋を分ける必要もないため、時間とコストの削減につながるというわけだ。
STEP2:スキルファーストな研修設計によるスキル差に対応した習熟度の向上
NTTデータユニバーシティでは、入社する人材のスキル差に対応するために、研修の前と後でアセスメントを行っている。以前は自己申告によってスキルを把握するしかなかったというが、Trackでは穴埋め式の演習やプログラミングの実装問題によるスキルアセスメントも行えるため、これらのデータを根拠に正確な評価ができるようになったという。
現在は、アンケートとスキルアセスメントの結果に応じて、初級・上級などのクラス分けを実施している。なぜ、スキルアセスメントだけでなくアンケートも行っているのかというと、研修ではJavaを使用しているが、それ以外の言語の経験者で、スキル的にも上級レベルの受講者をすくい上げるためだそうだ。
アセスメントでスキルレベルを可視化したうえでクラス分けを行うのは、初心者のフォローを手厚くできると同時に、上級者が不要な講義を受けなくて済むというメリットがあるからだ。「受講者の理解度が高いので、ここは飛ばしてもよいだろう」と講師が判断しやすくなったことで、上級者が講義に飽きずに済むだけでなく、講義を進めやすくなったと講師にも好評だという。
また、研修の終了後には個々人のカルテを作成。研修前後の効果はもちろん、研修中に行ったカリキュラムごとの修了判定テストの結果も含めて、1人ひとりの研修成果を可視化できる。研修中の様子がブラックボックス化せずに提示できるため、顧客からの信頼獲得につながっているという。
STEP3:データ活用とフォローアップ
次図は、Trackのダッシュボード画面だ。右下の「経過時間」では、横軸が経過時間を縦軸が点数を示している。つまり、赤枠が演習に時間をかけておらず点数も低い「危険ゾーン」だと一目で分かる。
また、NTTデータ ユニバーシティでは、個人のスコアを定点観測することで、どこまで何を習得できているのかも時系列で可視化している。たとえば、次図でオレンジ色の棒で示されているのが平均点未満のカリキュラムだ。左に行けば行くほどカリキュラムが進んでいる。真ん中のオレンジ色が増えてきたタイミングで声をかけ、個別にフォローしたことで、その後は青色の棒ばかりになっている好例である。
「人数が増えると人力だけでフォローしていくのは不可能です。客観的な情報によってフォローが必要な人を可視化し、すぐに対処できるようにしています」(市村氏)
各カリキュラムの終了後には修了判定テストを行っている。テスト結果やアンケート結果を回収して、次のカリキュラムの講師に渡すことで、スムーズな引き継ぎができているという。
このようにオンラインならではの利点を活かしながら、個々人のスキルの習得度合いやカリキュラムの進捗などを随時把握して受講者をフォローしている同社。過去3年間のデータを比較してみると、「初心者の合格率が急激に上昇する」という結果が得られているそうだ。
コロナ禍が収束に向かう中で、研修をオフラインに戻す企業も出てきているが、オンライン化によるさまざまなメリットを享受しているNTTデータ ユニバーシティでは、研修全体のうち約80%がオンライン研修のままだという。
データドリブンな研修を実現する「Track」
新田氏は、NTTデータ ユニバーシティの取り組みから見えるまとめとして、次の3つのポイントを提示した。
- オンライン活用により、データ活用の下地を整える
- スキルデータの活用による研修設計で難易度を調整する
- 研修実施中のデータ活用によって離脱者を防止する
そして、これらを支援する「Track」は、ギブリーが提供するDX人材の採用・育成・評価のためのHRプラットフォームだ。今回紹介したNTTデータ ユニバーシティが育成に活用しているのはLMSの「Track Training」である。
他にも、ギブリーではエンジニア研修サービスとして、Track Trainingとオフライン研修をミックスしたDX人材育成プログラム「Bootcamp」も用意している。こちらはスキルチェックによるパーソナライズドな学習パスで自律自走型人材を育成するエンジニア研修サービスだ。
またギブリーは、エンジニアスキルを網羅的にアセスメントして研修設計に活用できる「SEスキル検定」も提供している。SEスキル検定では難易度の異なる2種類の検定があり、基本情報技術者試験にはない実装問題によって、コーディングスキルも測れるのが最大の特徴である。
いずれもC・C++・C#・Java・Python・PHP・Rubyなど15言語以上に対応。いつでもどこでも受験でき、採点結果もすぐに分かる。初回は受験IDの発行数が無制限で、無料で受験ができるため、手軽に導入できる利点もある。新卒社員の研修効果を可視化して、フォローアップが必要な社員や研修領域を洗い出すのに効果的だ。
「SEスキル検定を使えば、何を学ばせるべきか、どこを強化すべきか、といったスキルレベルに応じた研修設計に必要な要素がすべて分かります。また、個人のレポートから苦手分野を洗い出すこともでき、アダプティブなフォローアップにも役立てられます」(新田氏)
新田氏は、エンジニアの研修設計におけるTrackの有用性を説いてセッションを締めくくった。
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