なぜ人事が「Z世代の特徴」を理解するべきなのか
まず、Z世代というテーマを扱うにあたって、安藤氏は「世代論には危うさがある」と前置きした。というのも、いつの時代も先行世代が新しい世代を批判する傾向があり、過度な一般化を生むおそれがあるからだ。本セッションでは、あくまで「Z世代の全体傾向を把握する」ことに焦点を当てることを安藤氏は強調した。
「Z世代とは、主に1995年~2009年生まれの世代を指し、日本では総人口の約14%を占めています。20年後には、この世代が労働市場の中心になるといわれているため、これからの採用戦略や人材マネジメントを考えるうえで、メインターゲットとなるZ世代の傾向を人事が把握することは必須なのです」(安藤氏)
Z世代が育った環境と3つの特徴
人事コンサルタントとして企業の支援を行う傍ら、大学でキャリアやマネジメントの授業を受け持っている安藤氏。まさにZ世代である大学生の「素の価値観」に触れているわけだ。安藤氏は、Z世代の特徴として、「価値相対主義」「キャリアコンシャス」「ソーシャル・ネイティブ」の3つを示した。
特徴1. 価値相対主義
「『価値相対主義』は、従来の『価値絶対主義』とは逆の考え方です。たとえば、大企業に入社することがベストである、という価値観は価値絶対主義となります。一方で、Z世代には価値相対主義の考え方が醸成されており、多様なキャリアを選ぶのが一般的になっています。
Z世代に価値相対主義が根付いた理由は、リベラルでフェアな価値観が浸透しているからです。彼らは、共働きの家庭で、性的役割分業ではなくみんなで協力する環境で育つ人が多い。さらに、初等教育でも競争機会が少なく、周囲と調和をとるのが得意な傾向があります」(安藤氏)
価値相対主義では、「これさえ信じておけば大丈夫」という指針がなく、多様な選択肢から自分が納得できるものを選択する必要がある。しかし、選択のたびに「なぜこれがよいのか」という根拠を見いだすことは難しく、安心感を得づらい。
「そうすると、他者からの承認によって、自分の意思決定の正当性を確保しようとします。そのため、他者からの承認が自己肯定感の基盤になるといわれているのです」(安藤氏)
Z世代が他の世代と比べて承認欲求が強い背景には、この価値相対主義があると安藤氏は説明する。彼らのモチベーションの源は「貢献と承認」であり、ナンバーワンであることよりもオンリーワンとして認められることに喜びを覚えるのだという。
特徴2. キャリアコンシャス
2つ目の特徴である「キャリアコンシャス」とは、キャリアに対する高い意識のことだ。Z世代が経験してきた社会情勢は、自然災害やテロ、金融危機などで不安定であった。そのためキャリア観も安定・堅実志向になる。
「一方、将来が見通しづらい社会では、大企業に入っても安泰とは限りません。そこで、自分が成長することが本当の安定につながると考えているのがZ世代です」(安藤氏)
安藤氏はこれを「新安定志向」と呼ぶ。企業が若い世代に配慮してホワイトな職場環境を整えたものの、当の社員からすると「ゆるい職場で自分の成長を感じられない」と、退職につながってしまうケースがある。こうした事例も、Z世代のキャリアコンシャスの価値観を裏付けている。
特徴3. ソーシャル・ネイティブ
3つ目の特徴は、「ソーシャル・ネイティブ」だ。言わずもがな、Z世代はSNSを使いこなす世代である。調査データによれば、Z世代の95%以上がSNSを利用しており、そのうち約80%は毎日1時間以上利用している。
安藤氏がZ世代から聞いた声では、SNSのアカウントを複数使い分けることも当たり前になっているのだという。
「その結果、『自分の行動が他人からどう思われているか気になる』『口コミなどの社会的証明を重視する』といった傾向が生じます。さらに、『自己肯定感が低くなる』傾向も見られます。これは、SNSでつながることによって、あらゆる他者と自分を比較しすぎてしまい、自信を失いやすいためです」(安藤氏)
安藤氏は、これら3つの特徴を踏まえて、次のようにまとめた。
「Z世代は柔軟で多様な価値観を持っている一方、絶対的な判断基準が見つけにくいため、個として認められることが重要です。また、安定を希求するがゆえに高い成長欲求を持っています。さらに、ソーシャル・ネイティブで常に人々とつながっているので、自分の位置付けが気になりやすい傾向があります」(安藤氏)