野沢 俊基(のざわ としき)氏
株式会社SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー
大学卒業後、ソフトウェア企業にて管理会計システムの導入コンサルタントとしてシステム設計・導入による大手企業の業務改善に従事。2020年にSmartHRへ入社し、大手企業のカスタマーサクセスを経験。その後プロダクトマーケーティングマネージャーとしてクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の「スキル管理」「人事評価」の企画・開発を担当。
人材開発で必要なのは2つだけ
昨今、人材開発の重要性が増していることは多くの人が実感しているところだろう。野沢氏によると、その大きな背景が少子高齢化だ。労働力人口が減少する中で各社の人材獲得競争が激化。外部からの採用だけに頼らず、現存する従業員の労働生産性を高める必要性が増している。
とはいえ、従業員の労働生産性を高めることも容易ではない。働くことに対する価値観が変化・多様化を見せており、個々人が働きがいを持って働く環境を用意できないことには、生産性も高めにくいといえる。多くの会社が「選ばれる組織」とアップデートできるように取り組みを進めているが、その答えは各社各様であるため、悩む担当者も多いだろう。
そこで1つの解となりそうなのが、人材開発だ。野沢氏は人材開発について「個々の能力を発掘し、最大化すること」と表現する。従業員にとっては自身の能力を向上させながらモチベーション・エンゲージメントの向上につながり、組織にとっては生産性の向上による活性化・業績向上を期待できるWin-Winの取り組みといえる。
では、効果的な人材開発を行うにはどうすべきか。野沢氏はシンプルに「現状を把握して、理想とのギャップに施策を打っていくこと」と表現する。より踏み込んで、従業員が保有するスキル情報などを把握し、個人や組織が求める姿とのギャップを見ながら適切な人員配置によって解決していくことだとも話す。
人員配置が人材開発に効果を発揮すると聞けばやや意外にも感じるが、実際に効果を出している企業は多い。SmartHRが2022年にHR総研と実施した調査結果によると、人員配置を実施したことで「部門の成果・実績が向上している」と回答した企業は47%。「メンバーの能力・スキルが高まっている」も38%、「人材育成が上手くいっている」と回答した企業も31%だった。
野沢氏は、人員配置が人材開発に重要な理由として「ロミンガーの法則」も例に挙げた。同法則は、米国の研究機関が経営者を対象にリーダーとしての成長に必要な要素を調査した結果として「経験」が7割、「助言」が2割、「研修」が1割だと示している。この法則を示したうえで、野沢氏は「従業員が新たな経験を積めるチャンスとなる人員配置は、非常に有効なのです」と話す。
人員配置とともに、人材開発のカギとして野沢氏が挙げた従業員のスキル把握も、取り組むことで成果を挙げている企業は多い。先ほどの調査結果によると、人員配置の成果が出ている企業のうち、従業員データを「充分に活用できている」「活用できている」と回答した企業は過半数を占めていた。一方、人員配置の成果が出ていない企業ではデータ活用できている割合が2割未満にとどまった。
そもそも従業員のデータを把握できていないことには、戦略的な人員配置や育成ができないのは当たり前のことだ。人事視点では、どのような人員配置がベストか分からないため、配置のミスマッチや人材の育成不足といったリスクがある。マネジメント層視点では、メンバーへのサポート不足や、納得感のない評価を下してしまうリスクもあるだろう。
野沢氏はここまでを次のようにまとめた。
「スキルの管理は、役割・役職に対するあるべき姿とのギャップを現状把握するのに適しています。そのうえで、従業員の強み・弱みを理解して、適切な人員配置によって成長機会をいかに提供できるかが、これからの企業にとって重要だといえるでしょう」(野沢氏)