具体的なステップ、どう進めるべき?
続いて、従業員のスキル把握から人員配置をどのように進めればよいかに話は進んだ。まず取り組むべきが、組織として必要なスキル項目の洗い出しだ。それには、各種のスキルをベースに、社内のポジションに求められる要件をまとめた「スキルマスター」を作成するとよい。
スキルマスターの作成にあたっては、現場をしっかりと巻き込むことがポイントだという。業務の最前線を巻き込むことで、必要なスキルの漏れを防げるだけでなく、部署ごとにスキルの粒度がバラけてしまうのも防げるメリットがある。万が一スキルの定義にバラつきがあると、部署横断でスキルマスターを活用できなくなってしまう恐れもあるため、事前に防げる。
基準をしっかりと定めることもポイントだ。資格の保有有無であれば分かりやすいが、スキルの中には習熟度を定義するべきものもあるはずだ。どの程度であればよいのか、基準を設けておくことで部署横断で活用しやすくなる。
スキルマスターを作成した後は、スキルを管理する体制を構築していく。この点について、従業員とマネージャー、そして人事が個別にデータを管理しているケースは“あるある”だろう。しかし、このような管理体制だとデータの収集や更新にタイムラグや漏れが発生するだけでなく、部署・組織横断型のデータ管理になりにくい。
こうした課題を防ぐためには、スキルのデータ管理に適した人事システムを入れるのが重要だ。組織内の各部署・レイヤーが同じ目線でデータを確認できることで、活用のサイクルが高速化していくだろう。
スキルに関するデータを収集できたら、今度は各組織やポジション、個々人に必要なスキルと、現状のギャップを可視化していく。その際「具体的」「客観的」「一律的」といった基準を持って取り組むと実際のアクションにつなげやすい。
ここまでを踏まえ、個人のスキルが不十分であれば成長環境として適した部署へ異動したり、あるいはスキルが十分であればより上位の役職への登用を検討したりしていく。部署ごとのスキル分布を確認し、どこかの部署にスキルが高い従業員が集中しているようであれば、偏りを解消するために人員配置を変更するのもよいだろう。
このような人材開発の取り組みを実施して、課題の解決につなげた企業の例として坂西精機のエピソードが挙がった。従業員が90人ほどの同社では、各メンバーのスキル把握が現場任せとなってしまい、部署間のスキルに差が生じていた。
そこで、製品測定や異常時の対応スキルなどを「1:未経験」から「5:指導可」までの5段階で定義。マネジメント層と現場がスキルを確認しつつ、一定の熟練度に達したメンバーは他部署へ異動させるような仕組みを構築した。すると、繁忙期の部署に他部署から人員配置できるなど、多能工化が進む効果が生まれたという。