組織にとって適切な新陳代謝がある
現在の慢性的な人手不足状態を抱える日本企業においては、人材の定着はたしかに1丁目1番地の課題かもしれません。特に日本では慣行的に、社員が1度入ったら定年退職まで残ってもらうことを前提とした人事制度を組み立てて運用している会社も多いため、「退職率は何が何でも下げるべきだし、低いほうが良いにきまっている」という考え方が根深く残っているのも分かります。
しかし本来、企業成長は組織の適切な新陳代謝によって実現されるともいえます。
組織には人件費という最大コストがあり、また各人に与えることのできるポストも有限のため、おのずと抱えられる人員数には限界があります。その中で、仮に誰も辞めずに残り続ければ、新たに人を増やすことはできません。水が淀めば濁るように、固定化した内向きな組織文化は新しいビジネスチャンスを見逃し、時に不祥事の原因とさえなります。
一方で、新しい人は組織に新しい風をもたらします。イノベーションや変革は組織の周縁部にいる人たちから始まるともいわれますが、抜本的な組織変革をもたらすのは、外から来た新参者なのです。だからこそ組織には新陳代謝が必要です。
また、そもそも自社のビジネスによって求める人物像は異なり、社内人口ピラミッドで頂点にすべき年齢が違います。
たとえば、ティーン向けのアパレルブランドであれば、トレンドに敏感な若い世代が求める人材像になるかもしれません。その場合、若い世代がピラミッドの頂点となるように退職率は15%くらい(100人いたら年15人退職し、7年で一新されることになる。仮に新卒で入社した場合、23歳+7年=30歳がピラミッドの頂点)が良いかもしれません。
反対に、メーカーや金融など一人前になるまで長い年月がかかる業界では、退職率は3%くらいに抑える必要があるでしょう(33年で一新されることになるため、新卒23歳+33年=56歳がピラミッドの頂点)。
このように、本来は組織の求める人物像に合わせて採用、育成、評価報酬制度、退職などが一貫した形で行われるべきです。しかし、多くの会社では採用や育成についてはよく練られているにもかかわらず、退職という機能については野放し、もしくはただやみくもに抑えようとしています。
組織の中の人材をどう入れ、どう動かし、どう出していくか、といった一連の流れのことを「人材フロー」と呼びますが、定着を考えるうえでは、まず自社の退職率はそもそも何%くらいが良いのかを考えておく必要があるのです。